業火の果て

□第9章 混乱
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「家の前まで送っていくよ。」

彬従は華音の手を取った。

「いいよ、隣りだから。」

「送っていく。」

華音はうなずいた。

祐都と柊は玄関で見送った。

「お休みヒロト、シュウ君。」

「また明日。」

バタンとドアが閉まった途端、祐都はふーっと深くため息を吐いた。

「君も大変だな。」

「アキに振り回されるのは慣れてるよ。」

祐都は力無く答えた。

「君がいいなら良いけどね。」

柊はふっと笑ってポンと祐都の肩を叩いた。



玄関を出るとひんやりとした空気に包まれた。

華音の家の前まで来て、彬従はそっと唇を重ねた。

「お母さんに見つかる…」

「いいよ、怒られても…」

彬従はキスを深めていった。

学園祭の夜の記憶が蘇り、華音は身体を熱くした。

やがて日付が変わった事を知らせる振動がブルルと伝わった。

彬従は身体を離し微笑んだ。

「誕生日おめでとう。またしばらく華音の方がお姉さんだな。」

「ありがとうアキ…」

突然爪先立って彬従にしがみつき、自らぎゅっと唇を重ねた。

「忘れないで、この前言ったこと。この先ずっと変わらないから。俺は華音のものだから……」

彬従は囁いた。

華音は泣き顔になった。

「アキが好き…大好き!」

「華音…」

彬従は涙を拭った。

「いつか二人きりで誕生日をお祝いして…」

「ああ…絶対に…」

もう一度深く唇を合わせ、華音は彬従を離すと、ドアの向こうに消えていった。



朝一番早い列車に乗り、彬従と柊は帰途についた。

祐都は駅まで見送りにきた。

「ヒロト、華音を頼む。あいつはしっかりしていそうで、ホントは怖がりで泣き虫だから……」

彬従は顔を歪めた。

「アキ、華音はね、アキの胸じゃないと泣かないんだよ。」

うつむき、祐都は呟いた。

「誰もアキの代わりにはならないんだ。」

彬従は祐都を見つめた。

「冬休みは必ず戻るから…」

「待ってるよ。」

「俺もまた華音に逢いに来るからよろしくね。」

隣りにいた柊がニコリと祐都に笑いかけた。

「アキの代わりに俺が華音を慰めるよ。」

「お前は華音に絡むな!」

彬従は怒りを爆発させた。

列車の発車ベルが鳴った。

「ヒロト、また寮に遊びに来てよ。辻がお前が来るの楽しみにしてるんだ。」

「近いうちに行くよ!」

列車に乗り込む彬従の背中を見るうち、急に想いが込み上げてきた。

「アキ、俺、華音を好きになっていい?」

彬従は振り返り、祐都の頭をペシッと叩いた。

「ダメに決まってるだろっ!」

「冗談だよ!」

祐都は笑って誤魔化した。

「華音を頼めるのはヒロトだけだ……」

列車のドアが彬従と祐都を別け隔てた。

「冗談で済ませないと……」

走り去る列車を見送り、祐都は独りうなだれた。



祐都のいる間は威勢の良かった彬従だが、別れた途端うずくまるように身体を丸めた。

「直ぐに寮に帰る?」

「このまま帰って華音のこと突っ込まれるのはツラいよ…」

彬従はため息を吐いた。

「良かったら俺んちに来ないか?と言っても俺は飼われてる身で、沙良と由良の家だけど。」

「お前の話は胡散臭い。」

彬従は苦笑した。

列車はガタガタと揺れた。

「華音のお母さんはお前らの仲を認めないのか?」

柊は真っ直ぐ彬従を見つめた。

「今までいろいろあったからな。」

彬従はうつむいた。

「それってお前のベッドの下に隠してある医学書と関係ある?」

「勝手に俺の部屋を探るなよ。」

「この前泊まった時、眠れなくてエロ本でもあるかと思って見つけたのさ。」

「二度と泊めないぞ。」

「不妊治療の本を集めて、医学部を目指しているのは華音の為?」

彬従は顔を上げ、柊を見返した。

「華音は子供を産めない身体だと言われた。俺は一族のために他の女と結婚して吉良の血を受け継いでいかなければならない……」

ふうっと小さく息を吐いた。

「もし、華音の身体を治して子供を産めるようにしてやれば、俺達は結ばれることが出来ると思ったんだ。」

「可能性はあるだろ?」

「そうだな……」

彬従は額を押さえた。

「茉莉花さまはそれでなくても俺が気に入らないんだ。華音を弄んでるみたいに思われてる。」

柊はクスッと笑った。

「華音を祐都に任せていいのかよ?祐都への信頼は絶大みたいだったぜ。」

「ヒロトが華音に手を出すはず無い!」

「そうかな?さっきのセリフ、冗談には思えなかったけど。」

彬従は列車の窓を流れる景色を睨みつけた。

「俺も華音のそばにいて、会社の手伝いとかすれば良かったのかな?」

「ご機嫌取りのために?」

「そうだよ…」

「何が正解かなんて誰にも分からないよ。」

彬従は眉をしかめた。

「ホント、お前と一緒にいると面白いよ。」

柊は一人でクスクスと笑い続けた。

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