業火の果て

□第10章 再会
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「じゃあ、先に行ってるね!」

委員会活動のある祐都を残し、華音は会社に向かった。

最寄りの駅まで歩いていると、突然、色白で背の高い少年の姿が目に飛び込んできた。

「シュウ君!?」

「元気?」

柊はニコリと笑った。

「どうしたの?いつも突然だけど!」

「華音の顔が見たかったから来たよ。」

二人は並んで歩いた。

「君の携帯、連絡が取れないんだけど。」

「……お母さんが私の携帯を解約したの。」

「ヒドいことをするな。」

華音は暗くうつむいた。

柊は華音を誘って近くのファミレスに入った。

「いいもの見せてあげる。」

携帯電話をかざして、写真を見せた。

「わぁっ!」

怒った彬従の顔が映し出されていた。

柊はデータを次々見せた。

「全部怒ってるよ!」

「アキが笑ってくれないんだ。」

柊は口を尖らせた。

「アキは元気?」

「元気だよ。いつも俺んちに遊びに来てる。でもすぐ怒るんだ。」

華音は思わずクスクス笑った。

「アキに見せびらかすから、華音の写真を撮らせて。」

柊は携帯を構えた。

「キスしたくなるような顔して。」

「えぇ!?」

華音はどぎまぎした。

「目をつぶるだけでいいよ!」

華音は戸惑いながら、柊の言いなりにした。

そっと立ち上がると柊は華音に顔を近づけた。

「からかわないで!」

華音はパッと目を開いて、柊の口元を手で押さえた。

「バレたか。」

柊はアハハと笑い声を上げた。

「この携帯あげる。」

華音は驚いた。

「遅れたけど、俺からの誕生日プレゼントね。ちなみに俺とアキのアドレスしか入ってないから。」

「通話料とかいろいろ掛かるよ。お金は私が払うから!」

「それは俺を飼ってる天日家が出すから気にしないで。」

柊はアドレス帳を開いて通話ボタンを押し、華音に渡した。

数回のコール音がした。

「いたずら電話ばっかりしてくるんじゃねぇ!」

彬従の声が聞こえた。

「アキ!」

「華音!?なんで?」

「シュウ君が逢いにきたの。」

柊は華音から携帯電話を取り上げた。

「よぉ!お前の代わりに来たよ。」

激しく罵る彬従の声がして、柊は苦笑いしながら携帯を耳から離した。

「お母さんが私の携帯を解約して連絡取れなくしてしまったの。でもシュウ君がこの携帯を私にくれるって。」

「ホント!?」

「これでまたアキの声が聞ける…」

「そうか……良かった!」

彬従は声を詰まらせた。

「お礼はアキにもらうから。」

華音から携帯を奪ってそのままブチっと電話を切った。

「お母さんに見つからないようにね。」

携帯を華音の手に戻した。

「シュウ君ありがとう。凄く嬉しい……」

華音は涙を流した。

「嬉しかったら笑ってよ。」

柊は華音の隣りに移った。

「一体何があったの?」

「誕生日のことがあってから、お母さんがますます厳しくなったの。」

涙ぐんで華音はうつむいた。

「冬休みもアキに戻ってくるなって言ってた……このままじゃ二度とアキに逢えない。」

「俺で良ければ協力する。お母さんにバレないように逢えばいい。」

「でも……」

「我慢しなくていいんだよ。」

柊は華音を抱き寄せた。

「シュウ君……!」

胸に顔を押しつけ、背中に手を回して華音は声を殺して泣きじゃくった。

「何してるの!?」

祐都が現れた。

華音はハッと顔を上げ、咄嗟に携帯電話を隠した。

「華音に近況報告をしにきただけさ。」

柊は見せびらかすように華音を抱きしめた。

「華音を離して。」

「はいはい。」

柊はそっと涙で濡れた華音の顔をハンカチで拭った。

「手を出すなって、アキに言われてるよね。」

「俺がアキに従う必要ある?」

柊は祐都を下から睨みつけた。

「行こう、華音!」

祐都は手を引き、華音を店から連れ出した。



しばらく二人は無言で歩いた。

「何故あの店にいるって分かったの?」

華音は祐都の手を振り払った。

「それは……」

祐都は言い澱んだ。

「もしかして、私、監視されてるの?」

「この前の事があってから、茉莉花さまが心配して華音に気付かれないように警護をつけたんだ。内緒にしていてごめん。」

「ヒロトが謝ることない。」

―――携帯のこと気付かれてない……

華音はホッとした。

「華音はアキ以外の胸でも泣くんだね。」

「えっ?」

見上げると、祐都は悲しげな表情で華音を見つめていた。

「何でもない。俺、委員会があるから学校に戻るよ。」

背を向け祐都は歩き去った。

―――ヒロトに隠し事をしてしまった…

華音は彬従にもらったネックレスを無意識に握りしめた。

*
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