業火の果て

□第10章 再会
3ページ/5ページ


大晦日になった。

大掃除を済ませ、お節料理を作り、新年を迎える準備を整えた。

年越しそばを食べ終えると、華音は厚手のコートを着込んだ。

「じゃあ行ってきます!」

「二年詣りなんて、暗くて人出が多いんだから気をつけて。」

母の茉莉花が珍しく家にいて、華音を見送った。

「大丈夫よ。ヒロトとメグが一緒だから。」



街の中心から少し離れた場所にあるこの地方で有名な神社に向かった。

駅で落ち合い、バスに揺られて目的地に着いた。

年が明ける前から神社は参拝客でごった返していた。

祐都が前を歩き、華音と恵夢は彼の背中を見ながらついて行く。

恵夢は祐都とほとんど会話せず、華音とばかりしゃべった。

「メグ、大丈夫?」

「えっ?私、変かな?」

「緊張してるよ。」

「任せて!」

恵夢は笑いながらしーっと指を立てた。

神社の入口からだらだらと人波が続き、2時間掛けてやっと賽銭箱に辿り着いた。

華音は手を合わせ、長い間祈り続けた。

おみくじを引き、お守りを買い、今度は帰りの人波に飲まれた。

華音と恵夢が手洗いに行く間、祐都は一人ぼんやりと待った。

―――去年はアキがいたんだ……

四人で合格祈願に来たことが嘘のようだ。

―――あの頃といろんなことが変わってしまった……

しばらくして恵夢が一人戻ってきた。

「華音は?」

「もうすぐ来ると思う。」

恵夢は素知らぬ顔で横に立った。

「何故一緒に戻って来ないの?」

「それは……」

「華音はどこ!?」

祐都は恵夢に詰め寄った。

「お願い!明日の朝まで私達と一緒だったことにしてあげて!」

「何を言ってるんだ!?」

人混みをかき分け、祐都は先を急いだ。

参拝出口の周辺は混雑が緩んでいた。

祐都は必死で華音の姿を探した。

しかし、彼女の姿と共に目に飛び込んで来たのは、色白で背の高い男の姿だった。

二人は肩を寄せ合いタクシーに乗り込んだ。

「どうしてシュウと?」

祐都はその場に立ち尽くした。

「ヒロト……」

追いついた恵夢が袖を引っ張った。

「黙っててごめん。華音はアキに逢いに行くの。こうでもしないと逢えないから!」

「何故、俺に相談無しなの?」

「ヒロトを自分とお母さんの板挟みにしたくないって言ってた……」

恵夢はうなだれた。

「……家まで送る。」

祐都は恵夢の手を強引に引っ張った。

無言のまま、二人は恵夢の家に帰り着いた。

「ヒロト……また逢える?」

返事は無かった。

祐都は歩き出した。

「ヒロト!」

恵夢の声に誘われるように振り向いた。

恵夢はギクリとした。

見たことも無いような冷たい視線……

「一晩中、華音と一緒にいたことにすればいいんだな?」

祐都は吐き捨てるように呟くと、無言のまま歩き去った。



1時間ほどタクシーに乗り、華音の住む街から離れた海辺のホテルに着いた。

エントランスの前に彬従がうずくまっていた。

「部屋で待ってろよ。風邪引くよ。」

「じっとしていられるかよ!」

車を降りると同時に華音は彬従と抱き合った。

「続きは部屋でやって。それから夜明けにはホテルを出るからな。」

「努力する!」

彬従は弾けそうな笑顔で答えた。

「シュウ君ありがとう!」

華音も笑顔で礼を言った。

「どういたしまして。」

彬従達がホテルの中に消えていくのを、手を振って見送った。

「シュウさま、私達はアキさまの逢い引きのお手伝いに来たんでしょうか?」

影から茜が現れた。

「文学少女なのは分かるけど、現代用語も覚えようね。」

柊は笑った。

「私、沙良さまに言い訳が出来ません。」

「お願いだから沙良には黙っていて。」

「でも……」

「それより茜も部屋でお休み。明日は早くに帰らないと。」

「申し訳ございません。では失礼させていただきます。」

柊は腕時計を見て歩き出した。

「どちらに行かれるんですか?」

「ちょっと散歩してくる。」



ホテルの前の浜辺に、柊は一人立った。

街灯と僅かな街明かりだけで、辺りは真っ暗だった。

「隠れてないで出てくれば?」

暗闇から柚子葉が現れた。

「また逢えてうれしいよ。」

「シュウ、あのお店には二度と来ないで。今度来たら辞めるから。」

柚子葉は冷たく言い放った。

「今どこに住んでいるの?」

「教えない。」

「携帯は?」

「あなたには何も教えないわ。」

「柚子葉に逢いたくなったらどうすればいいの。」

「私はあなたと絡むつもりは無い。」

柊はフフッと嘲り笑った。

「だったら何故ここに来たの。」

「あなたにはっきり断るためよ。私のことをもう追いかけないで。」

柚子葉は頑なだった。

「俺のこと憎んでいる?」

「あなたのことなんかとっくに忘れた。」

*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ