天狼の彼方
□第1章 凍土を渡る風
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「蓮、おかえり。大学はどう?」
詩音が涙を押さえて尋ねた。
赤ん坊の頃から高塔の家で共に暮らし、我が子のように育てて来たのだ。
「凄く楽しいよ。さすがに勉強はついて行くのが大変だけど。」
「あなたなら大丈夫。将来が楽しみよ。」
彼を知る大人達はうんうんと揃ってうなずいた。
蓮は振り返って棺を見た。
「まるで眠っているみたいなの…」
柚子葉の目から大粒の涙が溢れた。
「見つけたのはアキだったの?」
「ええ、お風呂に入ったままいつまでも出てこないから、心配して見に行ったら湯船に沈んでいたって…」
詩音も声を詰まらせた。
「湯船から引き出して人工呼吸をしたけれど息を吹き返さなくて…アキがずぶ濡れで助けを求めに来た時にはもう…」
「それでアキは自分のせいだと思ってるのか…」
「あの子の居そうな場所に心当たりは無いかい?」
祐都に尋ねられ蓮は首を横に振った。
思い浮かぶ所は、きっと恭花と健都が探しているはずだ。
「可哀想に…」
蓮は目を伏せた。
「それで、アキのお父さんは来るの?」
大人達が一斉にハッと息を飲んだ。
「連絡が付かないんだ。」
季従が唸った。
*