天狼の彼方
□第10章 彼女
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「どうしたの?顔が真っ青よ。」
「考え事をしていた…」
ガタガタと身体が震え、彬従は手で顔を覆った。
突然、柔らかな温もりに包まれた。
「もう自分を責めないで。大丈夫。大丈夫だから…」
柚子葉の胸に抱かれていた。
「華音ならきっとこうやって慰めていたでしょ?」
「ああ…ありがとう…」
彬従はその温もりに甘えた。
「俺の奥さんに何してるの?」
ハッと身体を離し、振り向いた。
柊がイライラとしながら笑っていた。
「どこにいたの?パパが急にいなくなったって、蓮が怒っていたわよ!」
柚子葉は慌てもしなかった。
「ちょっと急用が出来たんだ。おかげでシチューを食べ損なった。」
つかつかと近寄り、ムッとしながら妻を引き離した。
「何かあったのか?」
「アキは心配しなくていい。お前はまず自分の身体を治せよ。」
柊は妻の手を引き、彬従の部屋から連れ出した。
「何があったの?蓮も気にしていたわ。」
柚子葉の部屋に戻ると、柊はやっと妻の手を離した。
「チビあきがいなくなった。」
柚子葉は驚いた。
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