記念BOOK
□大根役者の過去
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アザゼル君はどちらかと言えば、落ちこぼれの分類に入る悪魔でしたよ。私からしてみればね。
けれど、たらしこむことに関しては一流。
彼の手によって落ちない悪魔はいませんでしたね。
見た目も発言もチャラチャラした彼は、一種のムードメーカーで・・・
けれど昔、見たことがあるんですよね。彼の“別の一面”を。
――・・・
「はあぁ?好きなヤツと付き合いたいぃ?そんなの、ヤっちまえば一発や!一発!」
偶然通りかかったところには、私の知らない悪魔に相談を持ち込まれてるアザゼル君がいた。
彼はニヤニヤ笑いながら「ヤったれ、ヤったれ!」と下品に連呼している。
「そ、そんなぁ・・・僕、真面目に相談してるのにッ」
相手の悪魔は相当なへたれだったのだろう。
その場にへなへなと座り込み、泣き出す始末。
アザゼル君だったら「何泣いとんねん!しょーもなっ!」と一蹴するでしょうね。
ま、私には関係ないとその場を離れようと――
「ぁー・・・あれだ。素直に好きって言えば良いじゃないか・・・その子だって、きっとそっちの方を望んでる。勇気持てよ。な?」
・・・今の、誰だ?
「アザゼル君っ!」
「・・・ほら。涙拭いて、しゃきっとしろ。んで、はっきり言ってやれ。好きなんだろ?何があってもへこたれんな。わかったな」
「っ、有難うアザゼル君!僕、言ってくるよ!」
「あ!けどお前、俺がこんなこと言ったって内緒だぞ?」
「うんっ!」
こくこくっと頷いたその悪魔が「有難う!」と言いながら走り去って行った。
その後ろ姿を眺めていた彼は、ふぅっと息をつく。
「・・・ったく、世話の焼ける」
その時の彼の苦笑にも似た笑みに、私は心を鷲掴みにされました。
元々は同じ学校でしたが、そのうち学校を卒業すると彼とも会わなくなり・・・
私の淡い恋とやらは何もないままに終わるのだろうと思っていました。
にもかかわらず・・・
「べーやん、べーやん、何ぼーっとしとるん?エロいこと考えてはんの?」
新たな契約者のところには、なんと彼もいたんですよ。
あの時の淡い恋は次第に形をはっきりとさせていきました。