PARIS ほか

□雪
1ページ/3ページ


  ─1─


ああ、雪だ

雪が降ってきた


…雪丸

誰が名付けたものか…

冷たい美しい雪のような男であった

初めは
心が冷たいと思った
情けを知らぬと
人の心を解らぬ男と

それが良かった
情に流される者はいけない
利のために動く者がいい

私を見よ

私についてくれば
お前一人では手にできない
お前の欲しいものを
手に入れられるぞ

与えてやれるのは私だけだ

雪丸…

雪丸…



どうしたことか

知ってみれば
あの男は存外心無い人間でもなかった
私ほどには…

あの男は
利用したはずの女子に真底惚れてしまったのだ
まったく、しょうのないことだ

何故冷徹になりきれぬ
天下をこの手におさめるには
心は無用だと言うのに

そうだ…
心は無用なのだ

雪丸…

私とともに天下を
この手におさめた天下を
見たくはないか…?

それがお前の望みではなかったのか?


心を知らぬ
はずのお前が
最後に私に縋って

女子に心奪われたお前が
私を頼みに

──家康様……家康様…いかがいたせば…

…愛しいのう…

──安堵いたせ…このようなときのことも考えておる…

刀を差し出したお前は
私がお前を斬って捨てねばならんことを解っておった

己の命運を
私に託したのだ
私に縋り、私を頼みに、私に捧げた

命を


雪丸…

 天下をこの手に

   心は 無用…


 ああ、雪だ…




end


2014.06.26
こんなところでなんだが、
まっつさん,Happy birthday

次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ