PARIS ほか

□血と砂
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われらベドウィン
砂漠の狼

熱砂と風と凍える月夜

腹の底と瞳の奥に秘めた想いは
死んでも変わらぬと誓った



「明朝、トマス殿が処刑される」

銃の手入れをしていた俺のもとへやってくるなりアブ・サランが言った。

「そうか。…トゥスン殿はどうするおつもりなのだ」
「助け出しに行くだろう」
「お前はどうするのだ」
「トゥスン殿が行くのなら俺も行く」
「どんな得がある」

お前は答えなかった。

お前の黒い燃える瞳は
静かすぎて恐ろしいほどだ。

「…成功した暁にはトゥスン殿はかならず報いてくれよう、アル・マリク」
「まあ、そうでなければ人の上には立てまいよ」
「では、行くか」
「行こう」

長衣の裾を払い
立ち上がりかけたお前の腕を掴んで
床に引き倒し押さえ込んで
唇に火をともす

「アル・マリク…時間がない…」

一度ならず触れた
その肌の滑らかさを求めかける
俺を制して
お前は誰に想いを馳せるのか

「生きてまた明日の夜会えたなら…この俺に抱かれると約束するか?」
「お前が望むなら…」

お前が望むなら…

雄叫び
血と砂にまみれ
命を捧げた戦いの日々

静かな男だ
内に熱い魂を宿した
美しく静かな男なのだ

俺が心奪われたのは


アブ・サラン…


偃月刀を閃かせ
先陣をきるお前の勇姿

篝火に照らされ
闇に浮かぶ不屈の横顔

お前を欲して
お前と共に生きると誓った

この想いは…

死んでも変わらぬと誓った

トゥスン殿を庇うように
敵の前に立ちはだかり腰を落とす

お前を

どうしても望むのだ
俺は



end

 →雑感

2015.05.30


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