PARIS ほか

□Come Dance With Me
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ライトが当たる。
汗が飛び散る。
音楽と魂がひとつになる。

野心と欲望
この手で掴みとる。

お前をねじ伏せ、
俺の前に這いつくばるその姿を、
いつか見てやる。
その完璧さを、
いつか嘲笑ってやる。

お前が
俺のものにならないのなら。


「ミハエル、失格だってな」
「まあ、当然だよな」
「ナタリーにひっぱたかれたの見たか」

うるせえ、外野。

「…っと、ミハエル、お疲れ」
「残念だったな」
「お前なら、まあ、また次があるさ」

目付きや声ににじむあからさまな侮蔑と嘲笑。
だが、俺はそんなもの気にしない。気にしてられるか。

俺が気にするのは。



「…なんだ、ミハエル。こんな時間に」

午前2時を回っていたろうか。
やっとアルバートが帰ってきた。
俺はその時、彼の部屋の扉の前に座りこんで彼を待っていた。
よく通報されなかったものだ。
もっとも、いかにもパーティー帰りのご同業の友人という体で居座っていたんだが。

「そっちは何だ、こんな時間まで。しかも手ぶらか?お持ち帰りはなしか?」
「お前と一緒にするな」
「お前呼ばわり?嬉しいぜ。あんたに君とか呼ばれたらぞっとする」
「…君、何しにきたんだ?」
「いいから、さっさと鍵開けて部屋に入れろよ。ここで騒いでもいいのか?」

こんなセリフに素直に従うのが常識人アルバートのいいところだ。

「それで?」

きれいに片付いた部屋の中で、ネクタイを緩め、上着を脱ぎながら彼は「何か飲むか」とすら言わない。
俺もそんなことでいちいち傷ついたりはしない。

「あの女と組むのか」
「そんな話をしにきたのか?」
「ああ、そんなこと、どうでもいいか。…俺を失格にして、さぞ気分がいいだろ」
「気分は良くないさ」

俺に背を向けたままの彼にイライラした。

「アルバート」

彼の肩に手をかけ、強く引いて振り向かせる。

「ミハエル?」

彼の声に俺は何も聞かない。彼の目に俺は何も見ない。彼の心は分からない。ああ、心なんて気にしてどうする?
俺のものにならない心など。

「人を失格にしといて、よくもまあ」
「当然だろ」
「スタンダードじゃない。ラテンだぞ。熱さが命だろ!」
「あんなものは熱さなんかじゃないだろ!」
「どうだっていいんだ、そんなこと!どんな理由であれ、この俺を失格にするなんて許せないんだよ!」
「お前、何言って…」

乱暴に唇を塞ぐと、抗う拳が肩を叩いた。だが、大した抵抗ではない。
足払いをかけ、彼をソファに押し倒し、覆い被さるように押さえつけたら、もう俺には逆らえない。
唇を貪りながら、シャツを引き裂くように開いていけば、もう漏れる吐息は、甘い音色だ。

「ミハエル…やめろ…!」
「きけないね。体のほうが正直だからな」

一度ならず
俺の腕の中で悶え喘いだ
あんただろうが。

「俺がお前を失格にしたからって、仕返しか?!」
「そんなこと関係あるか!」

そのときだ。彼の腕が
俺の背中を抱きしめ、
唇と舌が応え、
背筋を震わす囁きが耳元で弾けた。

「ああ、失格だろうが関係ないさ。お前は最高のダンサーだし」

セックスはもっと最高だからな。



明け方、暗いベッドで上体を起こし、隣に眠る若い男を見下ろしたアルバートは、ほんの数時間前に自分が彼に言った言葉を思い出していた。

嘘ではない。
ミハエルは最高のダンサーだし。セックスはもっと最高だ。
だが…

アルバートは、ミハエルの寝顔を眺めながら、心を締めつけられるように感じる。

この若者の乱雑さときたら。

これがミハエルだ。愚かで乱暴で残忍だ。でも、ではない。だから、でもない。ただ、惹かれてやまない。彼そのものに。

いつか言うか?まさかな。
言ってたまるか。

とりあえず、とっとと叩き出してやるか。今日のところは。

「ミハエル、起きろ」



end

2017.01.14


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