PARIS ほか
□雪
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雪が降ってきた
…雪丸
加奈の恋した男…
冷たい美しい雪のような男であった
冷酷な非情な
研ぎ澄まされた刀のような
それでいて不思議に人の心を惹きつける何かを纏った男…
加奈…
妹なれば誰よりも幸せを願っていたから
初めはどうにも信用できない男と思ったが、加奈があの男に惹かれていることを知って、見直すべきかと反省したのも束の間…
加奈をたぶらかし、私を罠にはめ、奥村の家を乗っ取ろうとしていたなどと、侮りがたき悪辣非道な男であったことよ…
そんな男が
慶次を
斬ろうとしていた
あのとき
許しがたき仇の男
雪丸が慶次に刀を振り上げていた
あのとき
私は…
心中に燃え上がる怒りを抱き、冴えざえと透徹した頭の片隅に、この美しい男の命乞いをした加奈を留め、鉄砲隊に、放て!と命じた…
逃げ場を探し駆ける男の行く手を遮った私を、傷を押さえたまま手にした刀を振り上げもせずに、彼が私を見つめた一瞬は
永劫の雪の結晶
そのとき
私は彼の何もかもを理解した
そう心に深く感じた…
家康殿に縋るような雪丸の背中を見ていた私には、家康殿の御家老が雪丸に囁いた言葉は聞こえなかった。
だが何と言ったかは察しがつく。
手にしていた刀を家康殿に差し出しながら雪丸は、家康殿が自分を切り捨てようなどとは露ほども疑わなかっただろう。
いや、それとも…
驚いたのは私だけなのだろうか。
もはや確かめるすべもない。
…不思議に人を惹きつける男だ
私とて…
加奈を傷つけ、慶次を殺そうとした憎むべき男であるのに…
雪丸…
お前が憐れでならないのだ
慶次は笑うだろうか
いや…慶次もきっと…
雪丸…
また雪が降ってきた…
冷たい 美しい
お前のような雪だ…
end
2014.06.28