PARIS ほか
□Am I right?
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チャックは、叔父の空き家で一晩過ごした翌朝、目を覚ましたとき一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。分からなかったが、何か不思議に幸せな気分だった。
それはここ数年感じたことのない心持ちで、質素な清潔な部屋の天井を眺めながら、気がつくとショウの深い眼差しを思い浮かべていたのだ。
自分にとって一番大切な人が、この町にいると思うと、チャックは信じられないほど高揚した気分になった。何故、もっと早くこの町に戻って来なかったのか。よくもまあ、これほど長い間離れていられたものだ…そう考えながら、実際にはまだショウに会ってもいないことを思い出し、苦笑する。
ショウに会いにゆこう。
何を置いても今日は。真っ先に会いにゆこう。
チャックはショウに会うために服を仕立てたいくらいだったが、金も時間もないので諦めた。幸い、彼とよく似た背格好だった叔父の一張羅が着られた。
小さい頃は、叔父は彼を随分可愛がってくれた。葬式にも出なくて申し訳ないことをしたと思いながら彼は、これも叔父の形見だし、喜んで貸してくれるだろうと、ありがたく拝借することにした。どうか安らかに…。アーメン。
靴下だけ新しいものにしたのは、ちょっとした矜持だが、自分らしさを忘れないためにはこれがなかなか役に立った。
ショウ・ムーア牧師が一人きりで暮らす家の扉の前に立ったとき、借り物の服が彼を危うく不安に陥れるところだった。靴下ひとつに縋るのも可笑しな話だが。
チャックは逸る心を抑えて呼び鈴を鳴らした。
返事がない。いないのか。
落胆したが、彼はすぐ思い直した。当然だ。この時間なら教会にいるのだろう。
2012.09.17