ROMA
□宝石
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ちぎからの短いメールは私を落胆させた。
ううん、落胆どころじゃなく…
「…何をやってるん…?ちぎ…」
呟いた独り言さえ私を苛む。
普段の彼女のあけっぴろげさが、少しの秘密にも耐えられない私をつくったのか。
了解、とだけ返信して、自分のじゃないみたいなため息をひとつ。
遠雷と驟雨とを硝子戸に隔てられた天空に感じて、思わず身震いする。
…今度は私が泣く番なんかな…
薄ぼんやりした、諦めに近い予感と。絶対あげないと叫んでくれた、あのときの彼女の細い背中と。
もう一度、彼女からのメールに目を落とす。
『ごめん。留守電チェックだけのつもりが急用が入って、帰れない』
ちぎが
帰るのは
私のところなんや…
いつも、こうやって彼女は、私に強さをくれる…
彼女に愛されてる安心感と、彼女を愛し続ける強さをくれる…
薄暗い曇天の溢れ入る部屋に佇み、手の甲をじっと見つめ…
彼女の指が私の指に絡みつく幻影を見る…
そうして、ちぎの夢を見て、目が醒めたとき、彼女が横にいたら…
「ちぎ…愛してる…」
そう言おう。ぜったい。
「私も。まっつさん、愛してる…愛してる…愛してる…」
ちぎが微笑んでキスをくれた。少し、悲しそうに…?…
「…え…?いつ、帰ったん?」
「明け方。タクシーで。まっつさん、寂しがってると思って」
眠そうにちぎは私にキスして抱きしめて、もうちょっと眠って起きたらセックスしよう、なんてやっぱり眠そうに囁く。
私は、泣きたいくらい嬉しくて、ちぎの手のひらについた、何の傷か知らない新しい傷に、癒すように口づけた。
寂しさと覚悟と切なさと愛を
こめて
ちぎの
琥珀色の瞳がじっと私を見つめる。愛してると、その目が言うの…
そのキスが。その微笑みが。その指先が。
「愛してる…まっつさん…」
「…あ……やっ…ちぎ…」
「やめてとか…言うの、なし…」
…やめてって…?
そんなこと、言うたことないやん…
何を、泣くの?ちぎ…
私を抱きながら、何を泣くの…?
ちぎの指に翻弄されて失いかけた意識の片隅で聞いた、ちぎの、か細い泣き声…
…まっつさん…一緒に………て…
うん、ちぎ…どこへでも…どこまでも…一緒に行くよ…
次に目が醒めたとき、目の前には彼女の後頭部。
髪を撫でようと手を伸ばしたら、彼女の指が私の指に絡みついていて果たせなかった。
だから、かわりにその指に口づけた。
ちぎはゆっくり寝返って、泣きはらした目で笑いかけ、私の指に口づけた。
私は
やっとのこと、振り絞る。
彼女がくれた強さで。
「ちぎ…何があったん…?」
逃げてはいけない
問いかけを。
2013.01.15