ROMA

□錬金術
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夜がいつも
彼女の眠りを繋ぎ止め
朝に引き渡すまいとする

目覚めを呼ぶ
まじないは分かってる

心をこめて
甘い優しい柔らかい
キスを


「ちぎ、起きて…」
「ん…ゃ…眠い…」
「舞台稽古、遅れる」
「やだー…」
今日はまじないが効かんな…。
「ほってくで」
「いいよ。どうせ、別々に行くんじゃん」
駄々っ子か。
「ちぎ。次の休みのデートいらんの?」
「まっつさんがいらないなら、私もいらない」
「分かった」
ちぎをほって、支度を始めると、とたんに心配そうな声で。
「デート…なし?」
「いいや。私は、いらなくないから」
「起きる」
「ちぎ」

キラキラと期待に満ちた眼差しで振り返る
私のきれいな恋人

「…好きや、で」
「うん…私も…へへ…」

照れ臭くて、つっかえた私に
頬を染めて
彼女は嬉しげに、寂しげに、微笑む

…可哀想に…

ここ最近のいろんなことを
いま彼女は少し試練に感じてる
多分私には助けてあげられない

だけど

「ちぎ」
「うん?」

期待に満ちた眼差しで振り返る
彼女にキスを

「ちぎ、好きや…」
「…私も…まっつさん、大好き…」

ちぎが言うてほしいなら
何度でも

好きやって言うたげる
キスも何度でもしてあげる

ほんまに好きやから




舞台稽古のソデで

「青天、似合うなあ…マジで」
「やろ?ちぎも、そのボサボサ頭、似合うてる」
「喜んでいいんだか…」
「きれいやで」
「…いや〜…青天で言われると照れるなぁ…」
「あほ…」

舞台には全部出るから
見ていれば、大丈夫だって分かる

ほら、気持ちよさそうに
龍馬を演じてる

ここまで持ってくるの、大変だったこと、知ってる
これからも全力で
これからも茨の道

私たちみんな

ちぎも、桂も、私も

それは何のためか
言わなくても分かってる

だから、
ちぎも、桂も、今日の最後に
ふと目が合ったら

晴れ晴れとした微笑みで
何も言わずに

きっと…




「じゃあ、まっつさん、あとで」
帰り際、廊下ですれ違ったちぎが、私の袖をきゅっと引っ張って囁いた。
「あ、うち?」
「…ったりまえじゃん」僅かに面食らって、はにかんで「え?行っちゃダメ?」
「いや、ええよ、もちろん」
また、笑顔。

…当たり前か…
当たり前って、ええ言葉やな…

いつか
一緒にいるのが当たり前に
なってたら嬉しい

それとも、もう、なってる?
なあ、ちぎ?
……


あとで。
私の部屋で。

「次の休みのデートは省エネモードでね」
「そやね」
「いちんち、まっつさんとまったりするんだ」
「できたらええね」
「南の島で」
「ダブルアロハシャツやな」
「二人きりでさ…」
「ちぎと私と二人きりな」
「…ほかにはなぁんにもいらない…」

私に凭れて
しだいにうとうとと
眠りに落ちてゆくちぎを
抱きしめて…


私は彼女を
眠らせる

真綿のような柔らかな
愛でくるんで眠らせる

涙も夢もそのままに
この手に抱いて
眠らせる




2013.07.31
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