ROMA

□驟雨
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雨が降りそうな空…
音のない部屋で、硝子戸の外には薄明るい曇り空の果てもない灰白色…

コーヒーを入れて、彼女を本名で呼ぶと、ベッドから出てきた恋人は少し苦い顔をして、
「その呼び方、あかんで。外で出るから」
「ベッドの中だけ?」
さっと頬を赤らめるまっつさんは可愛い。

音のない午前10時の…彼女の部屋…この幸せ…
けれど、雨の気配。

「今日…出かけるの?」
まっつさんの様子から、そんな気がして。
「え、なんで?」
…居心地悪そうだから。
「さっきメールきてたから」
「ちぎはどうすんの?」
「コマと約束」これからだけど。
「そうなん…」
ホッとしたような、がっかりしたような…なんで、この人、こんなに可愛いの…

「まっつさんは?誰と出かけんの?」
「誰とって言うか…花組観に行くねん」
あ…しまった…これは痛いわ…
「メールは誰から?」
自分で自分の声の不機嫌さにたじろぐ。一瞬にして彼女は完全警戒モードで
「…とよこさんやけど…なんかチケット一枚浮いちゃったみたいで」

私の手の中の彼女の気に入りのカップを見つめ…嫉妬することないと、自分に言い聞かせる。
膝を抱え、私の体を包む彼女のシャツの布の感触を手指に感じながら、嫉妬することないと…

ふと顔を上げると、まっつさんと目が合った。
訝しげな怯えたような色に揺らめく漆黒の瞳。
私は、微笑んだ。少なくとも、微笑んだつもりだった。

「…いやなら断るけど」
「そんな…別に」
自分が何に嫉妬しているかさえわからない…
「まっつさん、私に遠慮しないで…」
もう、なんでこんな…情けなくて頭を抱え込んでしまう。
「ちぎ…」
彼女はそっと私の手首を掴んで顔を上げさせて…既視感…唇にキスを。

「まっつさん…私、嫉妬深い?」
「そうなん?」
優しい黒い瞳…
「みわっちさんとか…みつるさんとか、私よりずっと長くまっつさんと一緒にいるし…私の知らないまっつさんをたくさん知ってるから…嫉妬しちゃうんだ」
「…そうなん?」

彼女は、私の脚の上に腰掛けて、私の首に腕を回し、優しく髪を梳いて…
「独占欲…感じてくれてるんや」
「うん…」
「嬉しい…」
ぞくぞくする呟き…何て声で囁くのか、この人は…

私は彼女を抱き締めて、背中から首筋、後頭部に手を這わせて、キスだけで済まないようなキスを交わして…鼻先をくすぐるROMAの匂いと体にかかる彼女の重みに、体の芯が熱くなるのを感じた…

…世界は消えて、二人きり…永遠に…そんな夢を見ていた…
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