ROMA

□恋歌
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心の中は嫉妬の嵐…
…でも、彼女が言わないと決めたのなら、私も聞かない…
彼女が、私を愛していると言う限りは…


まっつさんの髪が金茶になった。美容院から帰ってきた彼女を彼女の部屋で迎え入れる。
「わあ…初めて見る…」
「タカラジェンヌみたいやろ」
「黒髪も好きだけど、それもいいね」
洗面台の鏡の前のまっつさんを後ろから抱きしめる。いつもと違う、美容院のシャンプーの匂い…
公演初日直前の休みに、髪を染めた彼女を他の誰よりも先に見られる嬉しさ。
…私はまっつさんの「特別な人」だよね…

「今日、ほんまに忙しくないの?」
「まっつさんが最優先だから」
公演が始まったら、それこそ忙しいし…
「まっつさんは何か用事があるなら、私のことは気にせず…」
「今日は、ちぎが用事」
彼女は私の腕の中で体を捩り向き直ると、私の腰を抱いて、その漆黒の瞳で私を見つめた。
…大きな黒い瞳、長い睫毛、形のいい唇、細い顎、端的に綺麗な顔立ち、ちょっと調子の良くなさそうな肌、…全部好き…
「ちぎ、痩せすぎ…」
「え…嫌い?」
「ちゃうよ。心配してんの」
「大丈夫だよ。めっちゃ元気」
「ほんまかなあ…」
彼女は私の肩に頭を凭せかけて、私をぎゅっと抱きしめた。
まっつさんこそ細い。
今回、お芝居で恋人役のあゆちゃんより華奢だよなあ…と思う。
「…気持ちいい…」
抱きしめて揺れていたら、彼女はそんなふうに呟いて…
「眠くなってきた…」
「添い寝したげるよ」
ソファーで昼寝。休日の醍醐味かな…恋人を腕に抱いて、夢心地…

…頬に濡れた感触で目が醒めた。それから、唇に彼女の唇が触れる感触…
「…いま、頬っぺた、舐めた?」
私の胸の上に乗って間近に顔を覗きこんでいる彼女に尋ねた。
「キスしても起きへんから」
「うそ…もったいない…」
「キスなんかいくらでもしたげるやん」
「キスだけ?」
「他に何してほしいん?」悪戯っぽく笑う。彼女の笑ったときの口元、歯や唇の形が好きだ。
「ま、いろいろ」
「今日はちぎが用事やから、何でもしたげるよ」
こんな痺れる声でラヴァーズ・トークをされると、半端なくドキドキする。
「そんな…理性が持たないよ…」
「理性は棄てて」
ほとんどミリの単位の距離にある唇が囁く。…理性はこっちから棄てる前に飛んで行ってしまった。
彼女の名前を呼んで、抱きしめキスをする。
…抱き合いながら、体勢を変え、彼女を下に敷いて、シャツの裾を引き出して露わになった肌に手を這わせる。
脂肪の薄い乳房に触れると、切ない吐息を漏らされて、震えるほど愛しさが募る。
「…ちぎ…」
「名前、呼んで…」
彼女は私の本名を呟いて、好きや…と。私も、愛してる、と返しながら、熱く濡れた柔らかな…彼女の中に指を入れる。
あ…、と息を呑み、のけ反らせた首筋に唇を這わせると、彼女のROMAが匂い立った…

また、眠ってしまったようだった。
「ちぎ…」
今度は、あろうことか、頬っぺたをつねられた。
「…痛い…何すんの」
「あ、ごめん、…キスしても起きへんから」
「ほんとにぃ?」
「ほんと、ほんと」
…笑顔が可愛いなあ…
「お腹すいた…」
ちょうどそのとき、彼女の携帯が鳴って、
「桂からメール…ご飯一緒にどうかって。何人か集まってるみたいやけど…」
「まっつさん、本気ぃ?」
「お腹すいたって言うから…」
目が笑ってる。まっつさんも私と二人きりでいたいんだよね…。
「作ります」
彼女と付き合い出してから、有り合わせで作る料理の腕が上がった気がする。
簡単に料理して、食事して、何にもしない寛ぎタイム…他愛もない話でも、なんか彼女といるだけで幸せ…
彼女も幸せそう…
この幸せがずっと続けばいい…
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