ROMA

□恋歌
15ページ/15ページ

何かが変わってしまっただろうか…

心の奥底を覗いてみるけれど、まっつさんを愛する気持ちはまるで変わらない。
ただ、ふつふつと湧き上がる嫉妬心が抑えようもなく、わだかまり、私を苛む…

…変わらないどころか、気が狂いそうなほど、愛してる…

夜明けは遠い…けだるいベッドの中で、眠りに抱かれ穏やかな顔の恋人は、一体どんな夢を見ているのだろう…
人をこんな気持ちにさせておいて…
手を伸ばして、眠りを妨げないように、そっと髪に触れる…それから頬に…唇に…
そのとき、まっつさんが寝返りを打って、ちぎ…と呟いた。
…涙が出そう…

どうして、他の人に抱かれたりしたの…?
成り行きって何?
…誰なの?
あのときのメールの相手?なら、キタロウさんじゃあない。…まさか桂さんとか…?
わからない…

「まっつさん…」
触れることで、この人の体から他人の触れた見えない痕跡すべて消し去ってしまおうと…
再び、髪、頬、唇…と触れていく…
首筋、襟足、肩、背中…
手指をゆっくりと滑らせていく…そして、また、唇で…
肩に口づけしながら、胸に触れたとき、まっつさんがはっと息を呑み、体を強張らせた。
「起こしちゃった…?」
でも、謝らないよ…
「ちぎ…」
これは必要なことなの。
「まっつさん…誰なの…?」
胸から、痩せた肋骨まわり、お腹…腰骨…と撫でていく。
「…聞かんといて…」
「どうして?庇ってるの?」
…お尻…太股…彼女は堪らないように吐息を洩らす…
「…だって…現役の生徒やから…ちぎ、仕事でどこで一緒になるか分からへんやん…」
太股の目に見える痕跡も、触れて消し去ることができれば…
「花組の人?みわっちさん?」
張り付いたように、その場所から手が離れない…
「…知らないほうが…」
「それは私が決めることだよ…言って…!」
その場所から上に手を滑らせて、彼女の中に少し乱暴に入ると、あ…、と小さく叫ばれて、心がちくりと痛む。
彼女は、私の名前をかろうじて呟いたけれど、もう、相手が誰なのか、どころじゃないみたいだった…
私も、彼女を私のものにすることに集中して…


…ずっと以前にも、こんなふうに二人きりで丸二日ほども過ごした…
そのときは、彼女が私だけのものかどうか確信はなかった。
一緒にいられるだけで嬉しくて、愛し合えるだけで幸せで…彼女が私のものになってくれることはまさに奇跡だった…

「ちぎ…」
彼女が目を覚ましてベッドの上に起き上がる。寝乱れた髪をそっと梳いた。
彼女は私に寄り添って、私の背中に腕を回して、
「ちぎ…抱きしめて…」
「…まっつさん、愛してる…」
彼女をそっと抱きしめた。
「もっと強く抱いて…」
そのとおりにした。私の愛が伝わることを願って…
「…壮さんやねん…」
「え…」
雪組にもいたことのある花組二番手の颯爽とした上級生の姿が浮かんだ。
その人が、私のまっつさんを抱き寄せて口づけを交わす姿…
「…ごめんな…」
私は思わず彼女を更に強く抱きしめ、
「もう謝らないでいいから…どうして?壮さんが好きなの?」
「ちぎが好き…ちぎだけ…愛してるのは…」
「じゃあ、どうして…!」
「…花組のとき、壮さんと付き合ってた…」
ぽつりぽつりと私の腕の中で彼女が語り出す…顔は見えないけれど、声で彼女の心を感じられるように耳を澄ます。
「…組替えで終わってんけど、この前、廊下で会うたとき、カナリアの稽古のあとで、すごいしんどそうやって…」
…同情したの…?壮さんは特別なんだ…声で分かる…
「話したいって、車で送ってって言われて…話の流れでうちに来て…何でか分かんないけど…好きな人いるからやめてって言うてんけど…」
坦々と言葉を紡ぐけれど、声が辛そうで、可哀相になる…その瞬間、はっとした。
「…ここで…?」
「ごめん…」
「謝らなくていいって…!…シーツは?」
「洗ったよ…これは違うけど…」
「捨てて」
彼女をまたベッドに釘付けにし、激しくキスを落とす。
「うん…わかった…」
もう、けっこう体が辛いだろうに、彼女はうっとりと誘うような声で、愛してる…、と呟いて…


お風呂を涌かして、シャワーをかかりながら彼女の髪を優しく洗い、それから体を洗ってあげた。
彼女もボディシャンプーを泡立てて私の肌に乗せて広げたり、そっと乳首を摘んだり、ちょっと退屈しのぎに遊んでるみたいな様子で…
「…ちぎにキスされるのが好き…」
「うん…」
「ちぎに触れられるのが好き…」
漆黒の煌めく瞳が綺麗…
「…ちぎに抱かれるのがすごく好き…」
「嬉しい…」
泡をシャワーで洗い流して二人で湯舟に浸かる。まっつさんを抱きしめて、ホッと一息…
これで、壮さんの痕跡はもう洗い流した…キスの痕はまだ見えるけど、もう力はない…
これで、再び、まっつさんは私だけのもの…
「…許してもらえると思って、また浮気したらダメだよ」
「うん…せえへん…」
私の唇に啄むような軽いキスを…そして、あんな…と言葉を継ぐ。
「あの…後やけど、ちぎ…って呼んでしもたから、壮さん、知ってるから…」
私は脱力しながら笑いこけてしまった。


次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ