ROMA

□夢幻
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あの人の夢を見る。

いつも少し寂しげな風情で…
いつもやるせない漆黒の瞳で…
いつも私に微笑んでくれるけれど…

その細い背中に追いつけない。
呼んでも振り返らない。
見失っては、また見いだし…触れようと手を伸ばせば消えてしまう…

…まっつさん…


…目を開けると間近に彼女の漆黒の瞳…
夢の中で見たよりも、温かく優しげで。心配そうに憂いを湛えてはいるけれど…

「ちぎ…私の夢見て、泣いてんの?」
「…うん…まっつさん、夢の中ですごい冷たいよ…」
「あほな…」
微笑に触れる…夢の中で、どうしても触れられなかった彼女の…
「…ちぎ…」
この人の声で、吐息とともに囁かれる自分の名前を聞くのが好きだ…
「…好きやって、知ってるやん…」
そう囁きながら、しっとりと口づけをくれて…
私は、彼女の細い体を抱きしめ、その感触を忘れまいと…
「一週間も会えないなんて、つらい…」
「毎日メールする」
「電話も…声が聴きたいから」
「はいはい」
「…一週間くらい…って思ってる?しゃあないやつって…」
彼女は私をぎゅっと抱きしめて…
「思ってないよ…一日でも思わへん…」
それから、でも、我慢する…と呟いて…
「だから…飛んで帰ってきてな…」

…まっつさん…

愛しくて愛しくて愛しくて…一時も離れていたくない…
そんな気持ちをこめて、彼女を抱きしめ、彼女にキスして、彼女に私の印しを刻み…彼女を私のものにする…


「ちぎ…」
今度は私が彼女を泣かせてしまった…
「…早よ帰ってきてな…」
「うん…飛んで帰ってくる…」


彼女を腕に抱き…
彼女と口づけを交わし…
愛を告げ、愛を確かめ…

これは夢…?
これはまぼろし…?

違う…これこそ、真実…
たった一つのほんとうのこと…
私の腕の中の彼女…
彼女の腕の中の私…

…まっつさん…愛してる…

2012.03.13
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