ROMA

□宝石
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ちぎがくれた彼女の部屋の鍵。
まだ、使ったことはない。

東京から帰ってきて以来、彼女は私の部屋に入り浸ってる。
いつもそんな調子だから、ちぎの部屋の鍵を使うヒマがあるわけない。

床のラグに座りこんでソファに凭れて寛ぐ彼女。
麦畑のような色の髪を無造作にくしゃくしゃにして。
私のシャツをほとんど断りなく着込んで。…つまり、まっつさん、これ借りるねーと、返事を待たずに着ているのだけれど…

色白の、琥珀色の瞳の、綺麗な彼女。
にこにこと機嫌良く私の姿を目で追う。
私の部屋にいるちぎは、躾のいいペットみたい。…たまに襲われるけど。
やっぱり、猫っていうより犬かなぁ…

「今日はちょっとうちに帰って、留守電チェックしてくる」
「なんか…隠してる?」
留守電チェックなんかしたことないやん。固定電話なんてあくまで念のための命綱だから。
「サプライズの企画会議。あ、言ったらだめなんだった」
笑うちぎは、やっぱり何か隠してる。
「何のサプライズよ」
「もうすぐ誕生日やん」
「まだ一ヶ月くらい先やん…」
「すぐだよ…」

色白の…琥珀色の瞳の…
綺麗な微笑が近づいてきて、
唇に、濡れた吐息…

ちぎは私の宝物だ。

嬉しくて切なくて抱きしめたら抱きしめ返してくれる。
離したくない…そう思ってたら、彼女も離したくないみたいにじっと抱きしめ続けてくれる。

ちぎ…
ちぎ…好き…
…離さんといてね…



2012.12.29
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