ROMA

□宝石
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音楽は
アストル・ピアソラ

抱きあって揺れる
バンドネオンの音色に
首筋をかすめる
彼女のため息


まっつさんは私の宝物…


「ちぎ、好き…」

私の腕の中で
ため息に載せて囁く彼女を
更にきつく抱きしめて

「私も…愛してる…」

これは奇跡のようなもの
誰より何より大切な
愛しい人をこの腕に抱いて
歌いだす恋心

「…バースデープレゼントもらってくれる?」
「ないんかと思ってた…」
「それに近い。なかなか思いつかなくて」
「なくてもええねんけど…ちぎがいるだけで」
「じゃ、やめとこうかな…」
「でも、ちぎが選んでくれたプレゼントやったら、どんなものでも嬉しいと思う」
「まっつさんたら正直…」

歌いつづける恋心…
微笑みと口づけと甘やかな囁き
酔いしれて
くるくると回る、チェ・タンゴ

「プレゼント取りに行こう」

彼女の腰に腕を回したまま、音楽に揺れながら部屋を横切り、ソファに落ちる。
クッションの陰に隠していた包みを彼女の肩越しに引っ張り出す。
「つぶれてへん?」
「大丈夫。ハッピーバースデー、まっつさん」
「ありがとう」

丁寧に包みを開けて、にっこりと笑う彼女にキスした。

「ちぎの着そうなシャツやな」
「まっつさんの好みっぽいの、選んだつもりだったんだけど」
「私も好きや」
これ着てたらいつも、ちぎがすぐそばにいるみたいに感じられそう…なんて、くすぐったいことを早口に言ってから彼女は、照れくさそうに、ふふっと声を立てて笑った。


ブエノスアイレス午前零時でキスの雨
リベルタンゴで笑う彼女を抱えてベッドに引きずってゆく

「ここに残りがあったんや」

ベッドサイドの花瓶に生けた赤い薔薇の花束を見つけて、彼女が嬉しそうに笑った。私を抱きしめたまま。

「まっつマハラジャみたいに花びらを散らしたかったんだけどね」
「そんなもったいない」
「そうなの。かわいそうで、花びら、ちぎれなかった」
「ちぎのそうゆうとこが好き」

私のベッドに仰向けに寝転がって、私を見つめる黒い瞳は…

きらきらと耀いて、愛を語る

「まっつさん、愛してる…」

白い首筋に唇を這わせると、吐息まじりの感嘆詞
はだけた胸元に降りてゆくと、雪の丘に小さな花桃の蕾のように羞じらう頂きが震えてる
たんぽぽの綿毛を飛ばすみたいに息を吹きかけ、それから舌先で大事に愛でる

全身全霊かけて

愛を語るの


彼女の細い腰が跳ねたら、もうひとつ指を増やしてあげよう
彼女の痺れる声が堪らなく悶えたら、一番感じるところに触れてあげよう

潤む瞳が声なく切なげに瞬いたら、こぼれる涙をぬぐうように長い睫毛をかすめて彼女の瞼に口づけしよう

愛してる…

まっつさん
愛してる愛してる愛してる…


昇りつめて落ちてくる
あなたを抱きとめ
また囁こう

愛を


そしたらまた
呼んでくれるね、私の名を

一番大事な
宝物みたいに



2013.02.19


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