ROMA

□錬金術
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もう、心を揺らす
風は吹かない

愚かにも
そんなこと



「まっつさん…」

彼女は私を見て、凍らせた、その微笑を。
できることなら、時を戻したい。
その一瞬を見ずに済むように。

「知ってたんだ…」
「うん…でも、言われへん…口止めされてたし…」
「やめて。口止めとか、そんなこと問題じゃないって、分かってるくせに」

語尾が震えた。不覚にも。泣きたくない。泣くもんか。

「ちぎ…」
「やめて…!」

この私が、まっつさんの手を、振り払う、なんて。




当たり前な、知り方だった。
壮さんが雪組の主演者に、なるって聞いた。
でも、でも、でも、当たり前じゃ、だめなの。
だって、壮さんだから。

まっつさん、分かってるくせに。
私が何とも思わないとでも?
忘れたの?
壮さんだよ?


そうして
心が吹き飛ばされそうなときに
まっつさんが
私を見た。

私を見て、凍らせた、その微笑を。


2013.05.03
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