ROMA
□光
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愛しいひとが
いつか恋した
あのひとの扉を
自分の手で閉めて
私のもとへ
やってきたら
…風が
吹き抜けた
光輝き 心を洗う 風が
《私の部屋においで。もし、ちぎが来たいなら》
千秋楽の打ち上げの宴会場から、まっつさんと壮さんが消えたことに気づいてから1時間と22分。
組子の皆と歓談に努める笑顔もひきつり気味だったかもしれない。少なくとも、ともみは額に冷や汗みたいな顔をしてた。
皆と別れてさあどうしてくれようと携帯を手にしたら、まっつさんからメールが。微妙にらしからぬ文面ではあるけれど。
《もちろん行くよ!寝ないで待っててくれる?》
《いいや、寝る》
《寝てたら起こす》
《ええよ。キスで起こしてや》
このへんは、らしい。…何をらしからぬと感じたんだろう、私は?
まあいっか、とまっつさんからのお誘いに気を良くして、それまでやきもきさせられていたことなどケロリと忘れて、鼻歌さえ出てしまう。我ながら現金だ。単純だ。簡単だ。いいんだ。“10年早いちぎが好き”って言ってくれたし。
「あー…ちぎ、早いな」
扉を開けた彼女が笑った。
「マジで寝られたら、閉め出されっ子だと思って」
「利口やな…あと5分で寝るとこやったわ」
冗談かと思ったけど、上着を掛けたりトイレを借りたりしてるうちに、見ると彼女はベッドの上で眠っていた。
ほんとに寝てるのかと覗きこんだベッドの上の横顔。
きれい…
「…まっつさん」
キスして起こすなんて何だかもったいない。もう少し寝顔を見ていたい…
「ちぎ…見てるだけ?」
目を閉じた横顔のまま彼女が小さな声で笑った。
「寝たふり?まっつさん」
「白雪姫みたいにキスで起こされるとこ想像しとったのに」
「じゃ、もっかい寝てよ」
すでにぱっちりと見開かれ私を見つめる黒い目を手のひらで隠そうとしたら、彼女はたまらない声で笑った。
「ほら、ちぎ…もう白雪姫ごっこはええから…、キスして…」
「ん……」
優しく…
熱く、切なく、深く…滾る思いのままに…
「…っあ!まっつさん!…壮さんと消えてたでしょ!」
「あーらら…思い出してしもたか…」
「もおー、ばかー」
彼女をきつく抱きしめる。いいんだ。ほんとは。今、私の腕の中にいるから。…壮さんと、何でもないって、分かってるから。
「壮さんに“おいで”って言われたらついてってしまうやろ?」
「同意しかねます」
「場所変えて愚痴聞いたんで、とか言いながらノロケを聞かされたわ。ちぎをほってったバチが当たったかな」
「壮さんのノロケって…いや、そこじゃなく、とにかく壮さんと消えるなんて…」
「まあええやん…」
私に抱きしめられながら、彼女はちょっと上から私を見つめて、頬や髪を優しく撫でる。
愛しげに…
指先が触れるごと、愛してると囁くみたいに…
「…“おいで”…って言ったら、ちぎも…来たやん」
「え?あ…メール?」
らしからぬと感じたのは壮さんの口真似だからか。
「いやいやいや、騙されないよ。まっつさんから呼ばれたら、“おいで”じゃなくても飛んでくるから!」
「可愛いなあ、ちぎは…」
頬に唇にキスを。
触れるごと、愛してると囁く…
「…まっつさん…」
「…ちぎ…」
「……まっ…つさ…ん……」
「…………ち……ぎ……」
白い肌に
散らす
赤い花びら
甘やかに蕩けさせ
深く深く沈んでいく…
二人、熱に浮かされて
うわ言は愛のコンチェルト
情熱と哀愁を帯びた
ギターの調べに
声を震わせ謳うマドリガル
ともす火は篝火
燃え上がる恋の炎
二人の炎は
誰にも消せはしない
…やがて
はだかのまま絡み合って
眠るベッドで
囁く恋人の微かな声を聴く…
…オスカルとアンドレはおしまい。でも、ちぎと私とは…それ以上の間柄やから…
…それ以上の…絆…だね?…
…女同士やしな。完璧ちゃう?…
…そう思う…
まっつさん…愛してる…
…愛してる…ちぎ…
2013.12.31