ROMA

□水鏡
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離れ離れの公演の間、どうしようもなく彼女が恋しかった。

演じることに没頭すると、何故だか余計に、ふとした空白の瞬間、想いは募った。

『ニジンスキー』の千秋楽を一足先に迎え、雑事を片付け、私は彼女が全国ツアーから戻ってくるのを待ち侘びていた。
結局、帰宝のその日、耐え切れず夜中に彼女のもとを訪れてしまうほど。

扉を開けた彼女は私の姿を認めると、少し驚いて、艶然と笑った。

「なに、してんの」
「会いたかったから…」
「どうぞ、入り」
「疲れてませんか?」
「今さら」

そんなふうに笑わないでほしい。
花の香りの漂う部屋で。

「何か飲む?コーヒーでええ?」
「だめ…」

この前みたいにお酒の力が必要だと思った。
…ここまで来て?
勧められないまま、私はソファーにへたりこむ。

「じゃ、何がいいん?」

手を伸ばせば届く距離に彼女は佇んでいて、甘く香っていた。

無言で目の前に差し出された手の、細い指に指を絡ませ、引き寄せて

…深い漆黒の瞳を覗き込む…

その瞳は穏やかで平静で、私の切なさとは無縁なよう。
私だけが愛しているの…?
この間キスしてくれたのは彼女のほうなのに?

泣きそうな気持ちでやっと、短い休暇に一時間でもいいから私の為に時間を割いてと頼むと、彼女はあっさり、いいよと言う。

「なんでそんなふうに…」

絡めた指の熱。

「なんか気に入らへん?」

静かな微笑。

「そうじゃない…」

もどかしい。好きなのに…

…好きだから…

絡ませた指もそのままに、堪らず彼女の空いたほうの手首を掴んで引いた。
漆黒の瞳が揺らいで、一瞬私の肩越しに天を仰ぎ、それから私の目を見つめた。

私は彼女をソファーに組み敷いていた。

「何すんの、乱暴やな…」

微かに非難めいた声。だけど口元には微笑があった。

私は何かが辛くて、笑った。

彼女の首筋に口づけしながら
花の香りに酔いしれて
繰り返し

切なさを

愛にかえて…


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