ROMA

□協奏曲
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いつも、気がつくと、まっつさんのことを考えている…一緒にいても、いなくても。

彼女の笑顔や不機嫌顔、真面目な顔もふざけているときの顔も、涼しげな微笑も…泣き顔も、眼前に彷彿として、愛しくてしょうがない…

…だけど、愛しさと同時に、言い知れぬ淋しさも感じてしまう…
それは、否応なしに思い知らされた絶対的な孤独…

彼女の心も体も彼女だけのもので、私には窺い知れない、触れることなど及びもつかない心の領域が彼女の内に存在するのだと。
彼女は私を愛していると分かってはいるけれど、それは愛とは関係なく…

まっつさんの身体に閉じ込められた宇宙…
触れ合っているときでさえ、何億光年も離れているかのような…この届かなさ…

…きっと、この先ずっと、私はこの淋しさを抱えながら、この孤独のためになおさら、彼女を愛して、愛して、愛して…愛し続けるんだろう…



東京公演中はほとんど二人きりになれることがなくて、周りの人の目を盗んでキスするぐらいが、まっつさんとの一番親密な触れ合いだった。

舞台袖でスタンバイのときや、はけてきたときに、目が合って微笑みを交わしたり、何気なく体に触れたり…そんなことでも胸がいっぱいになって、幸せで、愛しくて…
多分、宝塚から遠く離れているから、彼女の昔の恋人の幻影に惑わされずに済んでるってこともあるけど…

休演日も、一人で行動するのでなければ、まっつさんは桂さんやゆめみさんと、私はコマと過ごすことが多くて、二人きりなんてなかなか困難だ。

そんな休演日のある日、コマとショッピングに出掛けて、お買い物、休憩、お買い物、休憩…と、のらくらしながらの3軒目のカフェでコマがにこにこと…
「デートの相手が私じゃ、もひとつなんじゃない?」
「え?」
「まっつさんとデートしたいでしょ?」
「え…?」
顔が赤くなるのを感じた。
「誘っちゃえ。別に変なことないよ、いつも仲いいし」
「え、え、え…」
コマは携帯を取り出して、
「まっつさんのメアド知ってるんだ。妬ける?」
「何で…な、何してんの」
「お誘い。今どこですかー、私たちと合流しませんかーって」
「私たちって…」
「…今日、ちぎ、すっごい上の空だからさー…ずうっと、まっつさんのこと考えてたでしょ」
「…考えてた…。コマ、いつから知ってたの?」
「だいぶ前だよ…ちぎ、分かりやすいから…でも、いつ言ってくれんのかなあって思ってたけど…我慢できなくて、私が言っちゃった」
あはは、と笑う。ああ、なんて出来のいい友達だろう…
「…まっつさんが雪組に来た最初っから大好きなの」
「うん…知ってる」
コマの携帯の着信ランプが光る。
「ああ、まっつさんだ。桂さんと一緒だって。合流するって。良かったね」
「嘘みたい…コマ、すごい…」
「そんなことないよ。気にしすぎだよ、ちぎ。普通じゃん、全然…」
「気にするよー…まっつさんに迷惑かけれないし…」
「まあ確かに、ちぎは分かりやすいけどさ…」

そうこうしてるうち、桂さんとまっつさんが現れて…
私を見て嬉しそうに微笑んだ彼女を目にしたときの心の顫えは例えようもなく…
ああ、私は、この人が好きで好きでどうしようもない…泣きたいくらい愛してるって、こんな気持ちなんだ…と、今更ながらの感動を噛み締めていた…

コマと私は向かい合って座っていたから、桂さんはコマの隣に座って、まっつさんは私の横で。
「何、飲んでんの?それ、おいしい?」
「カプチーノです。おいしいですよ」
桂さんとコマとのそんな会話を、まっつさんの横顔に呆然と見とれながら聞き流していると、その美しい横顔が振り向いて、漆黒の両の目がじっと私を見つめる。
「ちぎ…それで、なんか買うたん?」
「あ、はい…これ、お土産です」
パンダのポストカードを差し出すと、まっつさんは、くすんと笑って、可愛い…と呟く。
「まっつさんが可愛いです」
一瞬、まっつさんの微笑が消え、何か物問いたげな…半ば青ざめた表情で…
「…パンダにファンレター書かんとな」
もう、さっきの微笑だった。

…その表情は私を不安にさせたけれど、私は彼女を不安にさせないと心に誓ったのだから…
テーブルの下で、彼女の手を握りしめて、愛してる…と目で語った。…
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