ちぎた日記

□まさお日記
9ページ/9ページ



かの人は

颯爽と美しく
凛として悩ましい

獅子のような黒豹のような
猛々しさと繊細さ

舞台では


憧れて憧れて憧れまくって
舞台の外で見せる思いがけない柔らかな優しさにさえ
恋を覚えた


「まさおは一度壁にぶつかったらいいよ」

私のための助言というか予言というか

あれから数知れず壁にぶつかった

あの人も越えてきた壁と
誰もが越える機会さえ与えられずにきた壁と
思えばこそ

「ちぎちゃん、トップスターになりや」

私と同じ宿命を背負ってほしい

「トップになりましたよ、まさきさん」

あ?私、みりおにも言ったか?

「私もなりましたよ」

あ、望海にも?
え〜どうしよ。修羅場やわ、これって。
ちぎちゃん、助けてーーー…


「…まさおっ…まさおっ、起きろっ、まさおっ」
「あ…ちぎちゃん…、あ、夢か、怖…」
「みりおとか望海とかうなされてたよ」

まあ、眉間のタテジワが美しいわ、ちぎちゃん。

「そうやねん、悪い夢見たわ〜」
「日頃の行いが…」
「こんなはずでは…」
「タクシー呼んだげるから、帰りなよ」
「あさこさんがさ」
「なに、唐突に」
「トップ娘役は同志やって。」
「へえ?」
「かなみさんと付き合ってるんですかって聞いてん。そんときな」
「へえー、ほおー、それで?てか、何でそんなこと聞いたの?」
「にぶ…。そんなこと聞く理由はひとつしかないやろ」
「…え〜?」
「もし付き合ってないんならってー」
「ああ?かなみさんにコクッてもいいですかって?」
「ちゃうわ。あさこさん。あさこさんに、もし付き合ってないんなら、私とって」
「マジで?初耳」
「初めて人に言うたからな」
「えー、まさお、あさこさんが好きだったんだー?」
「…困らせたなー…。にっこり笑って、組子とは付き合わないって言われた」
「ああそう…そりゃまた…」
「…ちぎちゃん、今、自分がまっつさんにそんなん言われてたら死ぬとか考えたやろ」
「考えた。へへ」
「あさこさんは月組に来る前に花で組子同士で付き合ってたけどな」
「何で知ってんの」
「あさこさんが好きだったから」

私はあの人を見ていたから
あの人だけを見ていたから

だから気づいた。

花の彼女と劇団の廊下ですれちがったとき、

彼女が公演の楽屋を訪ねてきたとき、

あの人の目がどんな風にきらめいたか。

あの人の口元がどんなふうにほころんだか。

他の誰にもあんなふうには。


「知りたい?ちぎちゃん」
「なにを?」
「あさこさんが花で付き合ってた人が誰か」
「別にいらんけど」

この素直な無関心が、私を苛む。
ちぎちゃんのことも傷つけたくなる。時々。猛烈に。

「……まあ、誰でもええわな」

すんでのところで、私は思い止まったのに。

「あ、まさか、まっつさんとか?」

ちぎちゃん、笑って、地雷を踏んだね。

「当たりー」

でも思ったより、ちぎちゃんは強かった。

「私は壮さんにもあさこさんにも勝ったってことか!」

ガッツポーズ。

アホか。ステキやけど。


end


2017.12.26
退団した二人。どこで何をしているのかはまあ。私の中で現役生が退団した方々に勝ててない…。大劇場は毎公演見てるんですけどね〜。新しいダーリンが現れないわ〜。


前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ