猫の飼い犬。
□一話
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"フラワー柏葉"
「いらっしゃいませ。」
とある町の一角にある花屋。
そこでは爽やかな男子店員が一人
此所の近くに大きな病院があるからか、お見舞いの為に花を買う者が半数を占めていて、売上げもまぁまぁだ。
が、一つ難があるといえば、店員である。
今時 こんな家業の花屋にバイトが来るわけでもなく、その家業を嫁いだ息子しか店員が居ないわけで。
父親は小さい頃に離婚し、母親は現在休養中。
頼りになる綱がないということだ。
「オススメですか?それでしたら、」
ポツリ、弾ける音に意識を向ける。
「あぁ、雨ですね。傘はありますか?歩きならばお花もお客様も濡れてしまうので、良かったら店の傘を差し上げますよ」
愛想の良い店員は奥に置き傘を取りに行く。
ふと、目にはいったのは アレンジメント雑誌。
そこには、笑顔を向けた青年が一人
その青年こそ花屋の彼、柏葉 花奏(カシワバ カナデ)だ。
花屋を一人で営業しながらフラワーアレンジメントを目指している20歳大学生だ。
この雑誌は少し前に受賞した小さなアレンジメントの大会で取材された時のものだ。
母も喜んでくれた。
夢まであと少しなんだ。
このまま何ごともなく、波に乗れればいいのだけれど…
そんな思考は頭から振り切り、急いで傘を取り、店内に戻った。
「お待たせしました。どうぞ使って下さい。」
『ありがとうございます。若いのに頑張ってね。』
「はい、あ。ラベンダーお買い上げですね。」
お上品なおばあさんはやわらかに笑った。
レジを済ませ、外までお見送りをした後、また店内へと戻った。