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□明日もし世界が壊れても
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明日もし世界が壊れても







「なぁ、明日もし世界が滅ぶとしたら、お前は何をしたい?」
 遊馬がその問いをしてきたのは本当に唐突だった。暫く続いた沈黙の後ではあったが、決してその空気を破ろうとしたワケではなく、むしろその空気を受け継ぐように静かに、こちらの回答など最初から求めていないように、例えるなら呼吸をするのと同じように。実際、自分たちが一緒にいるときは殆ど黙っていることばかりだ。話す内容がないこともそうだが、恐らくそれ以上に、傍に居られるだけでよかった。
 だから一瞬、カイトは遊馬の意図に首を傾げた。恐らくその問いに答えなかったからといって、自分たちの関係が崩れることはないだろう、それでも。答えなくてはならないのではという、衝動に駆られた。
「…なんだ突然」
 それでも遊馬の意図を測るように言葉を返せば、遊馬は「んー」と唸る。その時背筋が伸びて、こちら側に体重が掛かった。
「…いや、ちょっと聞いてみたかっただけ。カイトならなんて答えるかなって」
 そう答える遊馬の姿を、カイトはチラリと一瞥する。カイトの位置からでは遊馬の表情は見えなかった、だから、遊馬の意図が測り切れず。
「…そうだな…ハルトの傍にいる。怯えているかもしれないから」
「……とかいって、カイトの方が取り乱して、ハルトに気遣われていたりしてな」
 チラリとこちらに顔を向けてきた遊馬が、ニヤリと笑ってそんなことを言う。それにカイトはムッとして言葉を返そうとしたが、遊馬の方が早かった。
「…でも、当然だと思うぜ?大切な人が死んじまうかもしれないんだ、取り乱さない方がおかしい」
 ポツリと独り言のように呟いた言葉。やはり先程から遊馬の言葉の意図が掴めない。彼の、考えていることが分からない。
「…なら、お前はどうするんだ?」
 だからカイトは問い返した。遊馬が自分に向けた問いを、彼はどんな答えを自分の中に用意して、それを問い掛けてきたのか。
 遊馬は黙って顔を少し上げた。空を仰ぎ見るかのように。

「…俺は、たぶん、みんなに会いに行く。ばあちゃんや姉ちゃん、小鳥や鉄男に会いに行って、委員長やキャットちゃん、それからシャーク、風也にもな」
 聞いたことがあったりなかったりな名前を、遊馬は紡いでいく、そして不意に遊馬が、カイトの手をぎゅっと握った。
「…そんで最後に、カイトに会いに行くと思う」
 そう言って振り返ってきた遊馬の顔には僅かに笑みが浮かんでいた。それは凄く淋しそうに見えて、それでいて何か決意のようなものに、満ちているような気がした。
「…何故だか分かるか?」
 遊馬の問いに、カイトは答えなかった。そう簡単に答えが出せるような問いではないと思ったのも確かだが――それ以上に、遊馬のその表情に、意識が釘づけになっていたからだ。
 だからカイトは、遊馬の言葉を、真正面から受け取ることになる。

「…みんなを、死なせたくないって思うためだ。例え明日世界が滅ぶとしても、むしろ滅ぶんだって言うのなら、俺は死なせたくないみんなに会いに行く。そんで、その気持ちを強くして――世界が滅ぶのを、止める方法を考えるんだ」

 真っ直ぐな瞳の、真っ直ぐな遊馬の言葉が、真っ直ぐカイトの元に届く。明日、世界が滅ぶなんて絵空事、その仮定を根底から覆すようなそれを阻止してみせるなんて絵空事、空想に空想を重ねた言葉だというのに、どうしてこんなにも、心に響くのか。
「……遊馬、」
「俺だけじゃ無理かもしれねぇけど、カイトも一緒に考えてくれりゃあ、大丈夫だと思うんだ。だから最後に会いに行くのはカイト、カイトとなら、どんなことでもなんとかなりそうな気がするから、さ」

 それはきっと、自分がずっと周りに選択肢を委ねていたから。護りたいものとそのために壊すことへのジレンマに陥って、それでも壊すことを選んだ自分は、壊さなければならない、守りたい存在に出会ってしまった。
(俺は単純に、どちらかを選ばないといけないと思っていた、いつかは選択しなければならないと思っていた、だが…)
 第三の選択肢があるというのか、作り出せるというのか。大切な人、二人を手放すことはない、方法が。

「…だから、その時は一緒に考えようぜ、世界を滅ぼさない方法を、さ!」
 そう言って、遊馬はにっと笑った。いつもの無邪気な笑顔、冷めた心を、暖めてくれる笑顔。
(…ああ、そうだな…お前となら、見つけられるかもしれない。ハルトとお前と、一緒にいられる、未来が)
 例えそれがまだ、ただの絵空事だとしても。


「…そうだな。俺もハルトを死なせたくはないから、ひたすら考えてやるさ」
「…ハルトだけかよ?」
「…もちろん、遊馬、お前もだ」


 君とならきっと、世界も救える気がするんだ。










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先月末の人類滅亡ネタ。書き途中で放置していたのを今更←
人類が滅亡しなかったのはカイ遊が頑張ってくれたからみたいです^▽^





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