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□悪魔の目にも涙
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悪魔の目にも涙







 その存在が後を付けてきていることには気付いていた。それでも気付いていないふりをして、ごく自然と人気のない路地へと入り込む。
「W!」
 すると案の定、その存在は陰から姿を現し、そう声を上げた。Wは笑みを浮かべながらその存在に振り返る。高鳴る鼓動を抑えながら。
「…おや、久しぶりですね、凌牙」
「久しぶりですね、じゃねぇ!今日という今日はお前と…」
 目の前の存在、凌牙の言う通り、顔を合わせるのは久しぶりだった。だからこそWは誰にも邪魔されずに凌牙を引っ掻き回してやろうとこんな人気の少ない路地裏に誘導したのだが。
 ふと、凌牙は途中で言葉を止めると「ん?」と眉を捻りながらゆっくりWに近づいてくる。てっきりデュエルを挑んでくるかと思っていたWも、そんな凌牙の行動に少し違和感を覚えたが――凌牙が近づいてくるにつれて、その顔は次第に引きつっていく。
 思わず、凌牙から離れようと後退ったが時既に遅し、目の前に立った凌牙をWは――見上げていた。

「…バ、カな…!」
「……へぇ、ちょっと会わない間に随分と小さくなったじゃねぇか、W」
 それを言うならお前が異様にデカくなったんだろうが!とWは凌牙に言ってやりたかった。しかし、それでは逆に墓穴を掘るようなものだろう。チッと舌打ちしてから、Wは凌牙を睨み付ける。
「おやおや、底上げの靴でも履かないと虚勢が張れませんか、凌牙」
「上げ底ブーツを履いているのはてめーだろ。生憎今日の俺はぺったんこのスニーカーだぜ」
 そう言って鼻で笑いながら凌牙はWに靴を見せる。確かに自分のブーツの底が微妙に厚かったり、凌牙が服装に似合わないスニーカーを履いていてこの明らかな身長差は認めよう。だがしかし、まるで全然!形勢逆転には程遠いんだよねぇ!!
 内心そんなことを思いながら完全に虚勢を張っているWはふっと笑って肩を竦めて見せる。

「…だからなんです?どちらにしろ私はあなたとデュエルするつもりはないですよ」
 言いながらそのまま凌牙から距離を置き、逃げ出す機会を伺うが、それを伸びてきた凌牙の腕が止める。
(……え、)
 ギリギリ凌牙が届かない間合いにいたはずだった。それでも凌牙はいとも簡単にWの腕を掴み上げ、そのまま横の壁にドッと押しつけられた。
「いっ…!!」
(…っ、まさか…身長が伸びた分、腕も伸びてるってことかよ…!?)
 痛みに顔を顰めたWは壁と凌牙に挟まれ、そして凌牙はそんなWに屈み込んでくる。その手は相変わらずWの腕を強く掴んでいて、逃げ出そうと身体を捻れば逆にその手に力を入れられ痛みが走る。
(…っ、くそ…!)
 本格的にヤバいと思い始め、Wがチラリと視線を上げれば。

「……W」
 逆光で陰になっている凌牙の顔が、真っ直ぐ自分を見ていて思わずドクンと心臓が強く跳ねた。
(…くそ、くそっ…!凌牙のくせに…!!)
 そう悪態付きつつも自分の感情というものは正直だ。身長が伸びた凌牙は見た目はそこまで変わっていないようで少し大人っぽくもなっていたのだ。それを真正面から見てしまい綺麗だとか、かっこいいだとか――ようするに見惚れてしまって、顔がじわじわと熱くなってくる。
 そんなWに、凌牙は口元をにっと笑って見せた。

「どうしたよ、W。顔が真っ赤だぜ?」
「う、うるせぇ…!」
 そんなWの文句も凌牙はははっと笑って流し、Wの腕を掴んでいない方でWの顎を取る。
「あっ……」
「へっ…てめぇもそんな顔出来るんだな」
「な、にが…!!」
 荒げるWの声は、凌牙の唇に阻まれて中途半端に途切れる。今までと違う、上から抑えつけられるようなキスに、Wは思わず凌牙の腕をぎゅっと掴んだ。

「ん、ふぁ…っ…」
 背後の壁に縫い付けられるように強く押し付けられ、そして舌を吸い上げられる。息が出来ずに、酸素が足りずに、Wの足が自分の身体を支えきれなくなってくる。
 だから唇を解放されると同時に、Wはくたりと凌牙に身体を預けた。息があがりはぁはぁと呼吸を繰り返す。そんなWの頭上から、凌牙の声が聞こえた。

「…そうやって俺の中に収まってりゃ、お前も十分かわいいって言ってんだよ」

 誰がだと、Wは内心悪態付きながらも、抱き締めてくる凌牙の腕を、ぎゅっと掴んだ。













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5000打リクエストで『いつもと違って主導権握って押せ押せなシャークさんとそんなシャークさんにたじたじなW』でした。
あずきバー様、素敵なリクエストありがとうございました!





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