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□路地裏ブルース3
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※凌W←VでVが凄まじく黒いです












路地裏ブルース3







 僕は、神代凌牙が嫌いだ。それは以前にデュエルで負けたからじゃない、その程度で好き嫌いという感情の切り分けをするほど僕の心は狭くない、むしろ彼と対戦して負けて、その強さを知り見直したくらいだ。
 じゃあ、何が気に入らないかと言うと――その、凌牙に対するW兄様の態度と、それに対する凌牙の態度だ。W兄様は何故か凌牙に異様に執着している、本人は認めていないが、端から見れば一目瞭然だった。他のファンとは違う扱い、態度、視線、それはまるで凌牙から伸びている何かに、絡め取られているようにも見えた。にも関わらず、そうとも知らずに、凌牙はW兄様を嫌悪する。それはまさにW兄様が希望を与えそれを奪った後の他のファンと同様に。
 W兄様にとって凌牙は特別であるけれど、凌牙にとってW兄様は特別ではない。W兄様の特別であるだけでも気に食わないというのに、そんな構図になっている事実が更に僕の苛立ちを募らせていた。
 だから。


『――お前、あの…Vってやつか?Wの弟の…』

 W兄様からの通信に出て、そこから凌牙の声が聞こえてきたときは、心臓が止まるかと思った。W兄様の身に何かあったのか、それこそ凌牙に復讐を遂げられその通信機の向こうから聞こえてくる声の彼の足元に跪けられていたりしているのだろうか。
 しかし、そこから聞こえてきたのは、凌牙が傷を負っているW兄様を見つけたこと、その傷の出血が酷く凌牙ではどうにも出来ないということ、救急車を呼ぶにもそれはW兄様に止められ、そんなW兄様からこの通信機に出た相手、つまりは僕に状況を話せと言われたこと、そして――最後に『…それで、どうすりゃいいんだ?』という、僕への問い掛け。

 何を、言っているのだろう彼は。彼の言葉を総て信じるのなら、凌牙はW兄様を助けようとしている。助けようとして、僕に救いを求めてきているのだ。
(……なんで、凌牙が、W兄様に、そんな…)
 通信機を持つ手が震えた。それでも僕は、本当に無意識に凌牙に指示をだし、トロンとX兄様に状況を伝え、すぐにW兄様への迎えと闇医者の手配をお願いした。

『……V、大丈夫かい?』
『え…?』
 W兄様への迎えについていこうとトロンの部屋を出ようとしたところでトロンに呼び止められた。振り返った先にいたトロンは、仮面に隠れて僅かにしか見えない表情で困ったような表情を見せながら言った。
『…何だかとっても、苛立っているように見えるよ』
『……そんなこと、ないです』

 絶対的なトロンの言葉を、僕はその時、初めて否定していた。









「……うっ…」
 小さな呻きと共に、Wが寝ているベッドに突っ伏していた凌牙が目を覚ます。すぐには、自分がいる場所が何処か分からず、部屋をキョロキョロし、横に座っているVの姿を見止めると目をパチクリとさせる。それから、ベッドの上のWがゆっくりと身体を起こせば「あ、」と短い声を漏らした。

「…W兄様、まだ横になっていないと…」
「お目覚めのようですね、凌牙」
 Vの気遣いを無視して、Wは寝起きの凌牙にそう言う。その表情はWがいつも凌牙に向けるもの、その笑みに凌牙も僅かに眉を寄せた。
「…てめぇこそ、やっと起きたみたいだな」
「ホッとしましたか?ずっと私のことを心配してくれていたようじゃないですか?」
「ああ?誰がてめぇなんか心配するか。てめぇがどうなったかハッキリしねぇと、俺の寝覚めが悪くなるんだよ」
「ちょ、二人とも…!」
 起きて早々そんな悪態を応酬させる二人にVが慌てて止めようとする。
 しかし、凌牙はそれだけ言うとフンッと鼻を鳴らして立ち上がる。

「…ま、それだけ減らず口が叩けるなら問題なさそうだな、俺は帰る」

 それだけ言うとあれだけ離れることを拒んでいたWの傍をあっさり離れ、Wの部屋を出ていく。
「…凌牙っ!」
 Vは慌てて凌牙の名前を呼ぶが、扉の向こうに凌牙は消えてしまった。Vは顔を歪めた後、すぐにWに振り返る。
「…W兄様、いくらなんでもあんな言い方は…!」
 しかし、そうVが言い掛けた直後、起き上がっていたWの身体がポスリとベッドの上に沈む。Wははぁはぁと息を切らしながら腹の部分を抑えていた。
 それを見てVは気付いた。先程Wが凌牙に取った態度が、痩せ我慢であったことを。
「…W、兄様…?」
「…っ、うる、せえ…な…凌牙に、助けてくれて、ありがとう、なんて…言えるわけ、ねーだろ…」
 空を仰ぎ見るように目元に手を当て、Wはそれだけ言う。そしてその言葉が、先程VがWにした問いの、明らかな答えだった。

(…やっぱり、W兄様を助けたのは、凌牙…なのか)
 だとしたら、自分だけでも彼に礼を言わなければ。Vはそう思い、ぎゅっと拳を握り締めるとその場で立ち上がり、凌牙の後を追うように部屋を出ていく。


 凌牙はトロンもいる、中央の広間にいた。血で汚れていた元々の彼の服は洗ったのが乾いていたのかそれに着替えていて、Vの姿にチラリと視線を寄越してきた。
 Vはごくりと喉を鳴らす。

「……凌牙、すみません、さっきはW兄様が失礼なことを…W兄様が助かったのは、君のおかげなのに…」
「いや…」
 それでも凌牙はWに向けていた明らかな嫌悪をVには向けてきていない。「あれ?」とVが思った直後、凌牙の表情が変わる。
 何故かとても、穏やかなものに。

「…いつも通りのあいつの減らず口が聞けて俺もホッとした。随分強がっていたみたいだが、あれだけ言えれば大丈夫そうだな」

(………は?)

 Vは一瞬、凌牙が何を言っているのかよく分からなかった。いつもの減らず口?ホッとした?大丈夫そう、だな?
 それを聞いた傍らのトロンも「へぇ?」なんて顔をしている。やめて、やめろ、それじゃ、まるで。

「…V、じゃあ凌牙を送り届けてあげてくれるかい?」
「………はい、トロン」
 Vはいつものように、トロンの指示に従っていた。それでも顔は能面のように無表情で固まっていて、頭の中ではパンクしそうなくらい色々な感情や考えが渦巻いていた。

(僕は、神代凌牙が嫌いだ。大嫌いだ。大切な兄様の特別であるあいつが、そんな兄様が特別ではないあいつが、でも、違う。その方がまだよかった、あいつにとって兄様が特別でないままの方がよかった)
 神代凌牙は他のWのファンサービスを受けた元ファンと同じだと思っていた。Wを憎み、復讐という言葉を口にする、自分たちが狙ったようにただ真っ直ぐWを追い掛ける。
 しかし、神代凌牙はそんな憎いはずのWを助けた。Wの命を狙った連中と全く違う行動をした。極め付けは、Wの強がりを見抜きそれでも凌牙は彼のいつも通りを、Wに向けた。
(……それは、それは…凌牙にとっても、W兄様が特別になっているってことだろう?僕たち家族にしか見抜けない、いや、さっきの兄様の強がりは僕だって見抜けていなかった、それを――)

 Vの足が不意に止まる。それにその後に続いていた凌牙も足を止め、「V?」と問い掛けてくる。

(――気安く、『V?』なんて呼ぶんじゃねぇよ)
「……なんでもありません、行きましょう、凌牙」
 心の中で呟いた言葉を一切表に出さずに、Vはそう言って凌牙に笑い掛ける。本当にこのまま地獄にでも連れていきたくなる感情と衝動を必死に抑えつけて、Vは真っ直ぐな道を歩いていく。
 脇道に、逸れることはなく。


(――ああ、やっぱり僕は、凌牙が大嫌いだ)














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…なんか続きそうですが続きません。

最初の話を書いたらW視点が書きたくなってそれを書いたらVちゃん視点が書きたくなって
そしたらまさかのVちゃん真っ黒オチになりました。どうしてこうなった。
やっぱり見切り発車で続きを書くのはダメですね!

とりあえず、最初は弱ったWと遭遇する凌牙さんの話を書きたかっただけの話はこれで終わりです。
中途半端な連作にお付き合い下さりありがとうございました!





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