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□青い闇に染まれ
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※シャークドレイクに取り付かれている凌牙×Wで
凌牙さんがトロン側に堕ちている設定前提の話
シャークドレイクがかなり人間的

捏造設定を多々含むため頭をやわらかーくして読める方のみどうぞ











青い闇に染まれ







 その時の空はどうしようもなく青かった。まるで深く蠢く、彼の感情を現わすかのように。



 そんな空を見上げていた凌牙は、おもむろに手元に視線をおろした。その手には一枚のカードを持っており、それは周りを黒く縁取られたモンスターエクシーズカード――しかもただのエクシーズではなく、この世界では異端とも言える力を持つナンバーズの一つ――だった。
 そのカードは今、凌牙の目の前に倒れている男から、凌牙が回収したものだ。青黒い靄がそのカードから立ちこめているがそれが凌牙に届くことはない。何故なら、凌牙はもう既に、それとは別の力に支配されているからだ。

「…シャーク・ドレイク」
 凌牙がポツリと口を開く。その場には凌牙と倒れているその男以外存在しないが、その呼び掛けに凌牙の内側から蠢くものが答えた。
『…なんだ、凌牙』
「…ナンバーズを回収したら、こいつは動かなくなったが大丈夫か?」
『さぁ…?俺は知らんな。支配されていた心ごと回収したんだ、もしかしたら精神崩壊でも起こしているのかもしれん』
「…あの、ナンバーズハンターが、魂ごとカードを抜くようにか」
 言って、凌牙は僅かに顔を顰めた。凌牙のいうナンバーズハンターというのが誰かは知らないが恐らくその名の通り、自分たちと同じようにナンバーズを集めている人間のことなのだろう。ナンバーズはその人間の精神に寄生してしまうから、切り離すのは多少強引な手が必要になる。おそらくナンバーズのオリジナルでもない限り、取り付かれた人間に影響を与えず回収するのは無理な話なのだ。
(…まぁ、それを言うなら凌牙もその対象だがな。俺はもう凌牙の心の根深くまで支配している、これを切り離したら――下手したら凌牙は死ぬかもしれない)
 それでも凌牙が自分の意思をもって行動出来ているのは、そのナンバーズの力を完全に受け入れているせいだろうとは思う。中途半端な受け入れであったら、自分の闇に付け込まれ完全にその意思をナンバーズに支配されるが、凌牙の場合その自分の闇さえ受け入れているせいか、自身の意思も保てていた。本来、自分の中に自分以外の思念が入り込めば拒絶してもおかしくないものだが、敢えてそれを受け入れている――そんな凌牙が面白いと思い、凌牙に取り付くナンバーズであるシャーク・ドレイクも無理矢理凌牙を抑え込むことはせずに一歩離れた場所からその様子を眺めていた。

 すると。
「――凌牙」
 不意に呼ばれて、凌牙がその方向に振り返る。そこにはいつの間にいたのか、小豆色と黄色の髪を揺らした一人の男が立っていた。凌牙と色違いで同じデザインの服を着ていて、にこりと微笑みながらツカツカとこちらに近づいてくる。
「…どうです?ナンバーズの回収は進んでいますか?」
 物腰爽やかにそう問い掛けてくる男に、凌牙は「ああ」と頷きながら先程回収したものと合わせて三枚のカードを彼に渡した。男はそれを受け取り「わお!」と大袈裟におどけてみせた。
「この短時間に三枚も。さすが凌牙ですね!」
「…うるせぇな、お前はどうなんだよ、W」
「ふふふ、何を隠そう私も三枚回収しましたよ」
 言いながらWと呼ばれた男は凌牙から受け取ったものとは別に三枚のナンバーズカードを凌牙に見せる。すると凌牙はWとは違い「そうかよ」とだけWに返した。
「おや、それだけですか」
「んなことより、今日はもういいのか?それともまだ――」
「いえ、6枚も回収できれば十分でしょう――帰りましょうか」
 Wがそう言えば、凌牙は「そうだな」とだけ頷いた。Wの煽りに動じない凌牙と、そんな凌牙の素っ気なさを当たり前に受け入れるW。その二人のやり取りは恐ろしく不自然であるはずなのにどうしようもなく自然だった。
 Wはナンバーズを集める一派の一人だ。主に表舞台に立ち、デュエルの世界で彼らが立ち回りやすくする役割を担っており、凌牙がその一派に加わってからは凌牙と共にそれぞれナンバーズ回収を行っている。シャーク・ドレイクもその一派によって回収されたカードの一枚であったが、凌牙を一派に加えるために凌牙に取り付かせた一枚だった。
(凌牙の闇の…元々の根源はWだった。凌牙をデュエルの表舞台から追放する原因を作り、凌牙の大切な人間を傷つけた。凌牙のWに対する憎しみが、凌牙の最初の闇だった。真っ直ぐでどろっとした、本当に心地い闇だったな)
 しかし、凌牙の闇は一派と接触が深くなるにつれて別物に変わっていった。一派の長が、凌牙に提言したのだ、自分たちに協力すれば凌牙の大切な人である妹の後遺症を治してみせると。凌牙は自分の中の蠢く闇を抑えつけて別の色に変えた。自分のプライドは脱ぎ捨てて憎む相手に協力することを決めた。大切な人のために、そして自分自身のために。



 一派が潜伏するホテルにつくと、凌牙はそのまま割り当てられた部屋に向かった。回収したカードに関してはWがすべて管理しているから凌牙の手元には残らない。着ていた服の襟元を緩めると凌牙はそのままバフリとベッドの上に倒れこんだ。灯りもつけずに薄暗い部屋の中、凌牙は薄らと瞳を開いた。

「…シャーク・ドレイク」
 呼び掛けはいつも凌牙からだ。シャーク・ドレイクには凌牙の思考が分かっているから問い掛ける必要はない。対して、凌牙はシャーク・ドレイクの声は聞こえるがその思考は読めないのだ。
『…なんだ、凌牙』
「聞かなくても分かってるんだろ?Wのやつのことだよ、あいつ、今日ナンバーズを三枚集めたって言っていたけれど本当はずっと俺のことを監視していたよなぁ?」
『…凌牙がそう思ったのならそうなのではないか?』
「…んだよそれ、俺はお前に聞いてんだぞ」
 拗ねたように凌牙が口を尖らせる。しかし、実際、シャーク・ドレイクの五感は凌牙とリンクしているからそれ以上の情報は得られない。背中に目があるワケではないのだ。それでもシャーク・ドレイクは少し考えてから凌牙を通じて得た情報を元に答える。
『…確かに、Wが現れたタイミングはかなり良かったな。まるでずっと監視していたようではあった』
「だよなぁ、そのくせあの言い草だしな、本当に腹が立つぜ、あいつ」
 ムッとした顔でそういう凌牙になんだ、Wのことで愚痴を零したかっただけなのだと気付く。Wのあの自分を小馬鹿にした態度が気に入らない、自分に分かりやすい嘘を吐く言動が気に食わない。そんな感情が凌牙の中には溢れている。そしてその感情は、一つの色に集約されていく。
『――凌牙、』
 それにシャーク・ドレイクが気付いた直後、コンコンと部屋のドアがノックされた。

「…凌牙、私です」
 それは噂をすればなんとやらのWだった。凌牙はベッドから身体を起こすと「なんだよ」とドア越しにWにそう返した。するとガチャリとドアが開き、Wが部屋に入ってくる。
「今日はお疲れさまでした」
 ドアを後ろ手に閉めながら、Wはにこりと笑って言う。しかし、そんなWを凌牙はチラリと睨みながら「ふん」とそっぽをむいた。
「ずっと俺を監視していたくせに白々しいんだよ」
「おや、気付いていましたか」
 意外だと言いたげに肩を竦めながらWは凌牙に近づいていく。Wが近づくたびに凌牙の眉間の皺は深くなったがWは気にせずそのまま凌牙の横に座った。
「…俺は、妹のためにお前らに協力してやるって言ったんだ。まだ信用されてねぇってことか?」
「いやすみません、今日あなたを私が見ていたのは私の勝手な行動ですから」
 あ?という顔で凌牙はWを見る。Wは誘うような流し目に、口元に指先を当てて答えてくる。
「凌牙のデュエルが、あまりに素晴らしくて格好良くて、見入っちゃったんですよ」
「……あ?」
「でも、そのせいで凌牙の誤解を招いたのでしたらしょうがありませんね」
 意味が分からないという目でWを見つめる凌牙に、Wはそう言うと、隣に座っている凌牙にそっと屈み込んでくる。
「…っ、おい…」
「今日、ナンバーズを三枚も回収したご褒美と、凌牙を誤解させたお詫びに、気持ちいいこと、させてあげますよ」
 そう言いながらWは凌牙の唇を塞ぐ。強ばった凌牙の手にも自分の手を重ねて、リラックスさせるように。
「…っ…W…」
「りょうが…」
 くちゅりくちゅりと何度も啄むように唇を重ねられる。重ねられていた手も、凌牙の腕を這うように撫でてきて、凌牙はぞくりと身体を震わせた。それにふふっとWは笑ってみせる。
「…かわいいですね、凌牙」
「…うる、せっ…!」
 Wのペースにはまるまいと、凌牙も虚勢を張るが完全にWのペースに飲まれている。そのまま身体をベッドの上に倒されてWに馬乗りにされている。
「…っ、W…」
「だーいじょうぶですよ、凌牙。あなたは寝ているだけでいいですから」
 そう言いながら、Wは軽く身体を揺らした。すると衣服越しにこれから交わることになるであろう器官が重なり、凌牙はごくりと息を呑んだ。

 凌牙の意識は、少しずつ、だが着実に、Wの中に溺れていった。






 神代凌牙はWのことが好きだ。シャーク・ドレイクがそれに気付いたのはわりと最近のことだ。凌牙自身自覚していなかったというか、あまり認めようとしていない感情だったせいか、それがそうだとはハッキリ分からなかったのだ。それでも最近はその感情をよく感じるようになった。凌牙がWのことを強く意識すればするほど、その色は濃くなるのだ。
 それでも凌牙がそれを認めないようにしていたのは、Wにとっての自分がそれほど大きくないことを知っていたから。自分だけが彼を強く意識している事実がどうしても受け入れ切れなかったのだ。そんな複雑に絡まる凌牙の感情を、Wは知ってか知らずか更に絡み付く行動をしてきた。凌牙に自分の身体を委ねて抱かせてみせたのだ。経験の浅い凌牙はその欲望に抗うことが出来なかった。言葉には出さなかったものの、その想いをWにぶちまけてしまった、のだ。




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