TEXT

□歪んだ愛をあなたへ
1ページ/2ページ

※W+神代妹捏造話。W←妹で妹のキャラは完全捏造
かなり酷い話で、神代兄妹が仲良しなのがお好きな方にもおすすめ出来ません。

どんなのでも大丈夫って方のみどうぞ↓











 昔おばあちゃんが言っていた、心が傷ついてしまった人は、その心に壁を作ってしまうと。そしてそれは外側から壊すのはとても難しくてその内側を覗くことも出来ないと。
 彼は、初めて話した時からその心に壁があると思っていた、私なんかでは絶対に乗り越えられない高い高い壁が。








歪んだ愛をあなたへ







「行ってきますー!」
 私は玄関の向こうにそう声を掛けてから家を飛び出した。門の下の階段をひとっ飛びで降りて、そのまま真っ白い真っ直ぐな道を駆けていく。朝早いが、休日であるせいか人も少ない、そんな道路を私は駅に向かって駆けていた、チラリと腕時計で時間を確認しながら。
 一時間ほどモノレールを乗り継げば私は目的の駅に着いた。初めて降りる駅にキョロキョロと辺りを見回してしまったが、すぐにDゲイザーからマップを呼び出しその案内の通りに駅を出る。そこから更に暫く歩いて、ついたのはとあるカードショップだった。
 その建物を目の前にごくりと喉を鳴らしてから「よおおおし!」と意気込む。その直後、クスクスと背後から笑う声が聞こえた。何処かで聞いたことのある。
 その正体に気付き、私はかぁぁぁぁと顔が熱くなるのが分かった。慌てて振り返った、その先にいたのは。

「…Wさん…!」
「おはようございます。やる気満々ですね」
 小豆色と金色の髪の男の人がいた。それは前に、一つ前の予選会場で会った“Wさん”だった。
 本当の名前は知らない、でも確か年は16歳で私よりそれなりに年上のお兄さんだ。血のような赤い目と鋭い目付きをすることもあるが基本は物腰柔らかな優男、というイメージがある。それでも一度対峙しデュエルをすればとてつもなく強いことを私は知っている。前の予選会場で対戦まではしなかったもののその戦績を私はずっとその目で見ていた。

「…まさか、Wさんと同じブロック予選に当たるなんて…」
 Wさんに続いて建物に入り、案内の札に従って歩いていく。するとWさんはふふふと笑って言葉を返してきた。
「まぁ当たったら正々堂々戦いましょう、あなたとはもう何度も対戦しましたけれど」
「…望むところですよ、手加減不要です!」
 私が威勢よくそう声をあげればやはりWさんは笑みを返すだけだったが、それに私の表情も緩む。お互いに受け付けを済ませてから、会場の中へと入って行った。
 試合形式はトーナメント、Dパッドに送られてきた対戦表を眺めれば、Wさんとは準決勝まで当たりそうにない。ホッとしたようないやいやそんなのダメでしょ!と思いながら会場内を見回す。選手の殆どは男の人だから女の子は私を含めて数人だけだ。中にはあからさまにこちらを伺ってくる人もいる。ついついいつもの癖で睨み返してしまいそうになるが、その肩をトンと叩かれて振り返ればWさんだった。
 Wさんは何も言わず私に目配せをしただけだったけれど、Wさんが何を言わんとしているのかは分かった。だから私は頷いてから小さく深呼吸をした。
(…大丈夫、私は、大丈夫)
 何度も心に、その言葉を繰り返した。



 Wさんと私が、初めて話したのもそうだった。私が男の人のガン付けに不用意にガンを飛ばし返してしまったのだ。そしてその男の人に絡まれていたところを、Wさんが助けてくれた。デュエルで相手を打ち負かし、相手が怯えて立ち去っていくのを見送る姿は一種のヒーローにも見えた。Wさんは再三あの時のことをたまたま僕のカードがあなたたちの足元に落ちて仕方なくですよと言っていたが、それでも私がWさんに助けてもらったのは確かで、そのデュエルに魅せられてしまったのは確かだった。
 だから――Wさんに、デュエルを教えて欲しいと私はお願いした。私は元々他の予選管轄地域に住んでいたが、そのブロックの代表は兄に内定していたため、他のブロックから出場しなければ全国大会までは行けなかった。だから電車を乗り継いで遥々違うブロックの予選に出場して、全国大会出場をめざしていたけれど、自分の力不足は十分承知しているつもりだった。だから遠征も兼ねてデュエル修業をしようとしていた時に出会ったのがWさん、Wさんは最初は渋っていたけれどいくつか条件付きでデュエルを教えてくれることを飲んでくれた。その時のことを私はよく覚えている。


『あー私の負け!途中までいい線行っていたと思ったのに!』
『ふふふ、まぁそうでしょうね、僕がそうなるように誘導していましたから』
『え!!??』
『気付いていませんでしたか?僕は、あなたがエクシーズ召喚するのを待っていたんですよ』
 Wさんは例えるなら道化師のような人だ。最初は自分が優位に戦況を進めていられたと思ったらあれよあれよと言う間にそれを覆されてそのまま負けてしまう。Wさんはそれに悪戯っぽく笑ってみせて種明かしでもするように解説していくのだ。
『んーでも、相手をわざと優位にさせるとか、それって危なくないですか?』
『ただ優位にさせるわけではありませんから、気持ち良くデュエルをさせて格好の獲物を目の前にぶら下げる。それにかぶりついたら、もう僕の手の中です』
『…楽しそうですね、Wさんってそういうの好きなんですか?』
『ええ、意表をつかれた相手の表情を見るのは本当に楽しいです。僕のデュエルの醍醐味ですね』
『ふーん、だったら…』
 そこで私はふと浮かんだことを口にした。深い意図もなく純粋にパッと浮かんだ疑問として。
『…もし、用意した獲物に、相手が食い付いて来なかったら、どうするんですか?』
 その時――Wさんの顔から表情が一瞬だけ消えた気がした。能面のようなのっぺりとした顔になり、それでもそれはすぐに爽やかな笑顔に変わる。私が知っている、いつものWさんの顔に。
『……それは、困りますねぇ…』
『え、ちょ、それでいいんですかWさん!?』
 あまりに拍子抜けの返答に私は思わずそう声を上げたが、何となく気付いていることがあった。

 Wさんの心にはどうしようもなく高い壁がある。いくら見上げても手を伸ばしても途方も無く高い壁、それを覆い隠しているのがその笑顔なのだと、私は分かっていた。私はWさんのそんな壁を崩すことが出来ないだろうかと思った、その壁の向こうの本当のWさんを見せてはもらえないのだろうかと思った。
 いつの間にかWさんにデュエルを教えてもらう以外に目的が出来た。それでも以前教わっていた間はそうなることが出来ずに、だから、再びブロック予選でWさんと再会できて私は嬉しかった。
(…この予選会で勝ち抜けば、Wさんと対戦できれば、剰え勝てちゃったりしたら、Wさんの内側を知ることが出来るかもしれない…!)
 あまりに不純な動機だったかもしれないが、それでも私はそれで奮起することが出来、トーナメントを勝ち進んでいく。
 ――が、結局準々決勝で負けて、Wさんとの対戦も適うことはなかった。
 Wさんはそのままブロック予選に優勝し、全国大会への切符を手に入れた。その夢を完全に断たれた私は何年かぶりに声を上げて泣いた。その時、Wさんが横にいてくれてポンポンと頭を叩いてくれた。
 その手が余りに暖かくて、涙が止まらなかった。

 その頃から私は、Wさんへ抱く感情に気付き始めていた。





 全国大会当日、私は兄の応援で会場に来ていた。デュエル前の兄に声を掛ければうげっという顔をされた。
「なんでお前がいるんだよ、予選落ち!」
「何それ凌牙ひどい!これでも他のブロック予選までは行ったんだからね!」
「でも結局無理だったんだろう?だからお前じゃ無理無理だって言ったんだよ」
「ああもう、凌牙なんて!Wさんに負けちゃえばいいんだよ!!」
「……Wさん?」
 私の言ったことに兄がこてりと首を傾げる。私は「ああ」と口を開いた。
「私が出たブロック予選の優勝者!すっごい強いんだから!凌牙が勝てるかどうか…」
「俺が負けるかよ――しかし、そういえば聞いたことあるな、今大会初出場の無名選手ですごい強いやつがいるって」
 兄がDパッドを操作して画面を開く。私がそれを覗き込めば丁度Wさんの姿が画面に映し出されたところだった。
「あ、この人、この人!Wさん!」
「ふぅん…でもこいつ、当たるとしたら決勝戦だぜ?それまで勝ち上がって来れるかねぇ」
「凌牙こそ!なに自分は勝ち上がる前提で話しているのさ、ヘンタイ!」
「誰がヘンタイだ!!」

 そうこう話している間に、兄の順番が来て、私はしぶしぶ閲覧スペースへと移動した。Dゲイザーをセットし各所を眺めていれば何ヶ所かで既にデュエルは行われているようだった。
「あ……」
 その中からWさんの姿は簡単に見つけられた。いつもの柔らかく優しい表情から力強くも厳しいデュエルを展開している。私は暫くそんなWさんの姿をボーッと眺めていた。
 すると。
「こんにちは」
 急に背後からそんな声が聞こえて、振り返れば一人の男の子が立っていた。私と2つか3つくらい年下くらいで、鎧の一部のような仮面を付けていた。そしてその仮面の隙間から見える目は、確かに私の姿を映している。
「…なぁに?」
「お姉さん、あの人の試合見ているの?」
「え、そうだけど…」
「ふぅん、あのお兄ちゃん、強いね」
 男の子がにこりと笑ってそう言ったので思わず私もすごい強いよね!と返していた。大好きなWさんのことをそう言ってもらえて、私も心が踊った。男の子に笑い掛けながら問い掛ける。
「ねぇ、君はなんていうの?」
「…ボク?ボクは……」
 男の子が口を開き、その声がその子の名前を紡ごうとした、直後。

 ビ―――――ッという鋭いサイレンが鳴り響く。それはデュエル終了を告げるもので思わず会場に目を走らせれば、どうやらWさんが勝ったようだった。やったー!と思わず声をあげ、さっきの男の子とも喜びを共用しようとした、が。
 振り返った先に、先程の男の子の姿はもうなかった。この会場では随分と目立つ格好だなと思ったから、探せばすぐに見つかるかと思いきやいくら周りを見回してもそれらしい姿を見つけられない。
 私は首を横に傾げつつも、視線を他の選手のデュエルに向けた。

 思えばこの時から、冷たい何かがひたりひたりと近づいて来ていたのかもしれない。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ