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□探していた君を見つけた
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※60話後捏造、凌牙とトロン








 「こっちだよ」とトロンに言われて、凌牙はとある一室に入った。薄暗い部屋にはベッドが三つ並んでいた。その上に横たわっている人物を見て、凌牙は大きく目を見開く。一番手前のベッドの上に寝ていたのは自分がよく見知った人物であったから。
「……W」
 ポツリとその名を呟けば「そうだね」とトロンも頷き、そのベッドに近づいていく。枕元にはいくつもの枕が並べられていて毛布からは肩が露出していた。その瞳は閉じられていて、死んだように眠っている。
 凌牙はそっと、そんなWに手を伸ばした。

「…凌牙、君はWのことが嫌いだった?」
 凌牙の指がWに触れる直前、そんなトロンの問いが聞こえて、凌牙はピクリと身体を震わせる。中途半端に伸ばされた指は着地点を見失い、彷徨っている。
「……当然だ。俺はこいつを憎んでいたんだから」
「でもさ、『憎い』と『嫌い』は同義語じゃないよね?憎いから嫌いってのは成り立たないと思うんだ」
「……何が言いたい?」
 冷たい声で凌牙はトロンに問い掛ける。凌牙の見えない位置で、トロンがふふふと笑うのが分かった。

「…Wはね、君のことが好きだったんだよ」

 ピクリとまた凌牙の身体は震えた。その内容とこのタイミングで言いだしたことに、眉を寄せた。
「…そんなワケがねーだろ」
「ところがあるんだよね。もちろん僕が君を罠にハメろって命令した時はそうじゃなかったと思うよ?さすがのWも好きな相手にそんなことをするなんて受け入れないさ」
 トロンがそっと毛布から露出したWの手に触れた。
「きっと…君に関わり出してからだろうね?少しずつ君に惹かれて、気付いたときには引き返せなくなっていた。それでもWは、君に憎まれ続ける道を選んだんだよ」

 眠るWの表情は穏やかだった。凌牙の知る、あの厭らしい顔も、最後の対戦で見せた苦しそうな顔も、見る影はない。まるで役目を終えて静かに休んでいるようにも見えた。
 すべての憎しみ、苦しみから解放されたように。

「ねぇ、凌牙、君はもうそれほど、Wのことは憎んでいないんじゃないかな?」
「…っ、それは…」
「被害者が加害者に求めるもの、それは罪悪感と謝罪だ。加害者がその罪を認め誠意ある謝罪があれば、被害者の気持ちってのは和らぐものだからね」
 トロンは恐らく、Wが凌牙に最後に伝えた言葉のことを言っているんだろう。『すまなかった』という謝罪と、『自分を憎め』という罪の意識。許せたわけではない、許してはいけないと思うのに。
 確かに、Wへの憎しみは、今はもう。

「………分からない」
 言いながら、凌牙はそっとWに触れた。金色の前髪を撫で、それでもWは目覚める気配を見せない、手首の辺りに息遣いを感じるから死んではいないと思いつつも。
 その顔を見つめる瞳を、細めた。

「だったら、質問を変えようか?」
 それでも、トロンの問い掛けは続く。凌牙の思考を、見透かしたように。

「…Wが目を覚まして、君に好きって言ったら、君はどうする?」

 首が、締め付けられたように苦しく感じた。息が出来ないわけではない、言葉で表すなら、気持ちが呼吸できずに苦しいのだ。トロンの言葉が、凌牙の心臓を締め付けるように絡み付いてくる。目の前に横たわる少年のこと、自分が憎み、追い掛け、決着を付けた少年のことを考えると、どうしようもなく。

(…W、お前は、本当に)
 俺のことが、好きだったのか?

 問い掛けても答えなど帰ってきはしない。いっそ、その答えを聞かずにそのままこの首を締めて永遠に聞けなくしてしまおうかとも思った。

 Wのことが憎かった。その気持ちだけでずっと彼のことを探していた、追い掛けていた。それでも追い付いて掴んだその腕は、いともあっさり自分の掌から消えてしまった。凌牙の気持ちを置き去りにしてまた何処かへ行ってしまった。
 そう思っていたが、本当はそうではなかったんだろうか、自分が追い掛けていた彼はただの幻で、本当は全く別の場所に、彼はいたんだろうか。


 凌牙はそっとWに触れていた手を離す。その掌を裏返し、その触れた場所を見つめて。

「……分からない」


 それでも何故だろう。
 ずっと追い掛けても触れることが出来なかった彼に、捕まえたと思ったらその掌から消えてしまったと思った彼に。
 やっと触れることが出来たような気が、凌牙にはしたのだ。










探していた君を見つけた















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