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□伝わるのは温もりだけ
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※15禁。性描写はありませんが要素を含みますのでご注意下さい












 そこには冷たさと、ほんの少しの暖かさだけがあった。













伝わるのは温もりだけ











「…っ、ぅ…、…」
 静かな部屋にくぐもった声が漏れた。ベッドサイドにもたれるように身体を預けたWがシーツに顔を押しつけながら漏れ出る声を抑えているのだ。そんな背中を見つめながら、俺は視線を細める。小さく息を吐いてからWの身体を半ば強引に起き上がらせる。
「ひ、ぁっ…」
 短く声を上げるWの顔をこちらに向ければ苦しそうに顔を歪めてはぁはぁと荒い息を漏らしていた。視線はぼんやりとこちらに向けられていて、そのまま俺はその中途半端に開いた唇に噛み付いた。
 キス、とは言い難いものだったかもしれない。それでもWは目立った抵抗はせずにただそれを受け入れていた。身体を震わせ鼻につくような声を漏らしつつも、Wの口内に忍ばせた舌に噛み付いてくることもなく。

「…りょ、がぁ…っ…」
 解放した口が紡いできたのは俺の名前、Wの身体を犯し、好きなように蹂躙している俺の名前だ。そんな縋り着いてくるようなWの声に、俺は言い知れぬ不快感を抱き、ぎりっと奥歯を噛み締めていた。


 Wとそういう身体の関係を持ったのはあの最悪な再会した直後、それからその行為は延々と続いていた。WDCの開催前、開催中も、俺たちは接触するたびにその行為に及んだ。
 最初に仕掛けてきたのはWだった。俺に馬乗りになってあろうことか俺のを銜え込んで身体を揺らし、笑っている姿は悪魔そのものだった。俺はそのWの一方的な行為にいつしか反発し、今度は俺自身がWを抑え込んでその身体を犯すようになった。Wは形勢が逆転しても抵抗どころか戸惑う姿すら見せなかった。まるで最初からそうなるよう仕向けていたかのように身体を犯されながら笑っていた。俺の上に跨って身体を揺すっていた時と同じような悪魔の笑みで。それは身体を重ねる回数が増えても変わることはなかった、が。
 とある出来事を境に、Wの態度は一変したのだ。
 WDCの準々決勝で、俺とWが対戦したあの時から。


 あの対戦でWとの因縁に決着がつき、後から謝罪の言葉も受けた。しかし、その後、再会したWの態度は俺が知っているあいつと何ら変わりなかった。軽い物言いにこちらを明らかに挑発するような態度、厭らしい笑み。僅かに丸くなった印象も受けたが、その変わらぬWの言動に、当然俺は反発し以前のように対立の態度を崩さなかった。こいつと仲直りなんて真っ平ごめんだと、そう簡単に許してたまるかと思った。
 そして身体の関係も結局継続してしまっていた。とはいえ以前は廃墟や路地裏で行為に及んでばかりだったのに対し、今日のように部屋のベッドの上でということの方が多くなった、けれど。

 そして、以前と違うことがもう一つ。
 それはセックスをしている時のWの態度だ。

 俺がWの身体を抑え込んで一方的に犯しているのは変わらない、抵抗らしい抵抗をしないのも以前と変わりはなかった、けれど。前よりも明らかに、Wは奉仕的な態度を取るようになったのだ。フェラだって前は感じている俺をからかうような目で見てきたくせに、今では俺を気持ち良くさせようと必死に見えた。俺がやりやすいように身体をくねらせて見せたり――そして決定的なのが、その表情だ。
 どんなに酷く扱った時でもその顔に挑発的な目と笑みを浮かべていたWが今ではとても辛そうに顔を歪めているだけなのだ。しかもそれは、身体のきしみによる辛さではなく、精神的なもののような気が俺にはしていた。
 まるで俺に懺悔でもするかのようにあいつは俺に抱かれている。その身をもって贖罪でもするように俺に抱かれにくる。
 それが自分の当たり前の役割だと言いたげに。



「んぅ…、りょ…がぁ…!」
 Wが身体をぶるりと震わせて精を吐き出したようだった。俺もWの中へすべてを吐き出し、そのままWに覆いかぶさるように倒れこんだ。熱い身体にはひんやりとしたシーツが気持ち良かった。それに目を閉じて小さく息を吐けば、腕の下にいるWがもぞもぞと動き、身体をまるめながら、こちらに擦り寄ってきている。

「…りょーが…」
 そして甘えるような声で俺の名前を呼ぶ。なんでそんなことをする、その意図は分からない、気持ち悪いと、ふざけるなと、突き放すことだってきっと出来る。だけど。
 俺はそのまま身体を横たえると、Wのその身体をぎゅっと引き寄せる。抱き締めたりはしない、それでもWの手は遠慮がちに俺の服を掴んでくる。それを突き放したりもしなかった。


 そんなWの態度の急変に、俺自身も戸惑っていた。前はWの笑みがむかついて散々酷く身体を扱ったがそんな気を起こさせないほどに。普段の態度は変わらないくせにこういう時の態度だけは一変する、その変化についてのWの意図がどうしても分からなかった。
 何か裏があるのかと思ったがそんな気配も見せない、それとも俺が感じたとおり一種の贖罪のつもりなのだろうかとも。
 ただ確かなことは、前以上にWのことが理解出来なくなったということ、以前は理解しようとすら思わなかったけれど、そうであった時以上に、Wの気持ちが全く分からなくて。

(……こんなに、近くにいるんだがな)



 まるで見えないガラス越しに触れているようだと、思った。















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