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□その面影を追い掛けて
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※ナッシュ←ドルベ要素注意











その面影を追い掛けて







 神代凌牙はナッシュに何処となく似ている。外見や雰囲気もさることながら、九十九遊馬を信じると言い切った彼の瞳はリーダーとして仲間を信頼し率いていたナッシュそのものだと思った。私はいつもそのナッシュの一歩後ろに立ってその動向を見守っていた。絶対の信頼を置いて、彼の背中さえ追い掛ければすべてが上手く行くと思っていた。
 とてもとても、残念なことに。




 薄暗い通路をドルベはひたひたと歩いていた。ナンバーズを集めるために遺跡を回っていた最中、どうやらその遺跡の罠にはまってしまったようだった。しかも、人間の世界に来た時にバリアンの力を持続できるバリアラピスを破損してしまい、どうやら本来の力を使ってこの場を切り抜けるのは難しそうだった。
(……全く、運がない…)
 ドルベは通路に沿って歩きながらため息を吐く。するとドルベの前を歩いていた少年が、チラリとドルベに振り返ってきた。
「……おい、辛気臭ぇ溜め息を吐いてんじゃねぇよ」
 そう言ってドルベをギロリと睨んできたのは深海のような深い青色の髪を揺らした少年、神代凌牙だった。それはドルベが運が悪いと溜め息を漏らした理由の一つでもある。神代凌牙は、No.32 シャーク・ドレイクの所有者、つまりはドルベたちの標的の一人でもあるからだ。
 そんな彼と行動を共にすることになるなんて、まったく運がないと思う。
(……まったく、ミザエルやベクターに知られでもしたら、なんと言われるか)
 しかも、神代凌牙は完全にドルベのことを疑っているのだ。咄嗟に旅行者だと嘘を吐いたが、自分でも愚かな嘘を吐いてしまったと思う。何処の世界に、荷物も何も持たずにうろついている旅行者がいるというのか。
(…ナッシュ、君がいなくなってから、私はずっとこんな状態だ。君が知ったらきっと呆れてしまうだろうな)
 その姿を見ることも話を聞いてもらうことも出来ない相手のことを想いながら、ドルベは思わず苦笑を漏らす。それからふっと視線をあげた。
 そこには前を歩く凌牙の背中が見える。こちらには目もくれず、真っ直ぐ前を見据えて進んでいく姿は本当にナッシュにそっくりだと思いながら。
 そもそもここまでナッシュのことを考えてしまうのは、他ならない彼のせいだ。彼の姿を見ていると本当のナッシュが目の前にいる錯覚に陥ってしまう。気持ちが落ち着いて、すべてを委ねてしまいそうになる。
 彼の背中を追い掛けてさえいれば、すべてが上手く行きそうな気がしてきてしまう。

(……本当に、重症だな私は…)
 今度は溜め息まで出さなかったが、それでも思わず頭を抱えそうになった。いつの間にかナッシュにこんなにも依存している自分に気付いて。そんなナッシュの姿を敵であるはずの少年に重ねまでして。

「…………おい」

 すると、ポツリと凌牙の声が聞こえて、ドルベはハッと顔を上げる。すると凌牙が相変わらずの不機嫌そうな表情でドルベを睨み付けていて。
「…俺の背後を歩くな」
「え…?」
「横を歩けよ。罠避けにされているみたいで癪に触る」
 凌牙は短くそれだけ言って、ぷいっとすぐに前へ顔を戻してしまった。ドルベはそれに目を見開き、それから思わず声を出して笑いそうになった。

(…ナッシュが彼にそっくり?神代凌牙にナッシュを重ねていた?何を考えていたのだろうな、私は…)
 ナッシュは自分にこんなことを言ったりはしなかった。ナッシュはいつも自分の前に立ちその背中だけをこちらに向けていた。それは絶対的な強さと、カリスマ性があってこそ。彼はこちらを信じるからこそ自分達に背を向けた、自分の背中をこちらに預けた。
(…そんな気持ちを、私はいつの間にか…)

 ドルベはふっと微笑むと、歩く足を早めて、凌牙の横に並ぶ。凌牙はチラリとこちらに視線を向けてきたが、それ以上なにかを言ったりはしなかった。



 ナッシュにそっくりでナッシュの面影はあるが、それでもナッシュではない彼が、大切なことを教えてくれた気がした。










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わりと電波ですが、凌牙さんにナッシュを重ねながら、凌牙とナッシュはやっぱり別人なんだって気付くドルベさんが書きたかったんです。





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