異世界

□水底の夢
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幼い頃、こっそり忍び込んだ書庫の最奥。誰も近づかない秘密の場所には古い日記等が乱雑に積まれている。

そんな本の山に埋もれて埃だらけになりながら、それはひっそりと時を重ねていた。

古い日記に記されていたのは、自らの勝手な思い込みで大切な少女を喪った、一人の男の物語。

海の王女はずっと愛していたのに、気付かず別の女性を選び、そして王女は消えてしまう、そんな物語。

喪ってから真実を知り、後悔と哀しみに彩られた遠い記録を、今でもはっきりと憶えている。


『どうして気付けなかったのだろう。彼女はずっと私の傍にいてくれたのに』


悔いる言葉で綴られた悲しい日記の作者は、エリック・フォーリス。

隣国の王女と結婚したがすぐに離縁し、残りの生涯を独身で過ごした謎の王子。

直接ではないが自分と遠く血の繋がる先祖のその日記を、幼い心に色鮮やかに刻み込んだ。


今思えば、あの日記を見つけたのは偶然なんかじゃなかった。
けれど、運命なんて言葉で片付けさせはしない。


それはほんのささやかな、ただのきっかけだったのだから。



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