応募作品

□黎明の月
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 いつから彼を好きになったのかはわからない。ただ想いを自覚し始めたのは、目の前に座る双子の妹の言葉を聞いたからだった。

「光、あたし藤堂君が好きなの」
「……は?」

 朝食の席で唐突に告げられた言葉に、まじまじと妹の顔を見つめる。大きな瞳、愛らしい顔立ち、女らしさの出てきた体。艶のある黒髪を胸まで伸ばした、家族の贔屓目を抜きにしても美少女と呼べる自慢の妹。明るく物おじしない性格で、双子なのにこんなに違うのかと時々溜息をつきたくなる。

「ね、光は藤堂君と親友でしょう? なんとか私を売り込めない?」
「……治久とはそんな会話しないからなぁ」

 治久は光の親友で、男の光から見てもいい男である。背は高く筋肉質とまでは言わないがバランスの取れた体格の持ち主で、顔も優しげに整っている。凛々しいでもなく、かと言って女っぽい訳でもない。笑顔が魅力的ないわゆるハンサムだ。
 明るく穏やかで非常に人当たりがいいうえ、困った人を見捨てられない性格なので、学年問わず人気がある。有名な話としては、先日足をくじいた一年の男子をお姫様だっこで保健室に運んだというのがある。
普通男子がお姫様だっこされるというのはわりと屈辱的な事として思われそうだが、治久ならそうするだろうという共通認識のおかげでむしろその男子は羨ましがられているらしい。
 そんな二人が並べば美男美女のカップルになるだろうと思いつつ、明梨の望むようないい返事が出来ない。
 実際にそんな話をしていないのもそうだが、なんとなく治久の隣に女の子がいるのが想像出来なかったというのもある。

「光も注意しといて!! 横から変な女が出来ないように気をつけてよね!!」
「あ〜……うん……」

 気が強い明梨は思い込んだら突っ走るタイプである。あいまいに返事をにごし、光はさっさと逃げる事にした。
 制服に着替え、髪をとかそうと鏡を覗き込む。妹によく似た、男らしさのかけらもない顔立ち。ただ骨の太さだけはさすがに違うため、高校生になった今では多少の区別はつくようになった。
 小学生までは本当に女の子にしか見えず、散々からかわれて辟易したものだ。中学からは治久に出会い、何かとかばってくれたりとしたのでそんな事もなく、そのうち成長期で多少は男っぽくなったのが救いだった。
 それでも毎朝鏡を見るのが憂鬱なのにはあまり変わりがないが。

「さて、行きますか」

 カバンを片手に家を出る。登校時間には少々早いが、これがいつものスタイルだった。


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