1.









変なやつ、を見つけた。

新しいクラスに、ポツリと。
誰もが固まって騒いでいるのに。


――変なやつ。


赤茶の髪に、凍てついた銀の瞳。
そこにいるだけで金がとれそうなほど端正な顔なのに、どこか、どこかが冷めているのだ。


「どうしたんだよ、ゴールド?」

「ん?ああ、別になんでもねーよ」


近くの女子がしゃべり出した。


「あの子すごくかっこいいよね」

「ああ、シルバー君?彼ものすごい人なのよ」

「えー?」


がらり、と勢いよく教室のドアが開いた。
担任の――…名前忘れた――先生が入ってきて景気よく怒鳴る。


「ほらホームルーム始めっぞー!席につけ!」


わらわらとみなが自分の席に戻り始める。
ちらり、と見る。
やはり彼――シルバーだったか――はどことなく冷めているというか、つまらなさそうな顔をしていた。


――変なやつ。


* *


眠い。
春の陽気は本当にずるい。
眠い、眠い。
だが、授業の初日教室で無防備に眠りこけるわけにはいかない。
叱られるのが目に見えている。

……。
…………。

――サボるか。
よし、サボろう。


「せんせーい」

「えーっと…ゴールド君?」

「頭痛いんで保健室行ってきます」


呆気にとられた先生をそのままに、教室を出る。

――屋上とか、開いてるかな。
行ってみようか。

そのまま階段を上がる。
カン、カン、カン。
滑り止めの金属が小気味よい音を鳴らした。


「……ここか?……よっと」


幸い鍵はかかってなかった。
扉を開けると、風が吹き込んできた。
一歩、踏み出す。


「――きれーな空だな」


屋上には、空が広がっていた。
吸い込まれそうな、柔らかな青空。
気持ちいい。
当たりを見回す。
学校の大きさの割りに、大きくない。
が、狭いわけでもなかった。


「こりゃサボるのに丁度いい」


屋上の真ん中当たりに、ごろんと仰向けに寝転ぶ。
これはいい。
明日は枕を持ってこよう。
明日も晴れるといいな。
そんなことをつらつら考えていると、急激に睡魔がおそってきた。


* *


「ちょっとあなた達!いつまでそうしているつもり!?」


高い声に、叩き起こされた。
目をこすりながら、身を起こす。
空の色は、先ほどよりも鮮やかになったかのようだった。


「んー……なんかあったのかよ」


振り仰ぐと、仁王立ちした二つ括りの女子生徒がいた。
なぜかものすごく怒っているようだ。
かわいい顔がもったいない。


「なんかあったか、ですって?そりゃ一度に二人もいなくなれば十分に問題だと思いますけど!」

「……お前、同じクラス?」

「じゃなきゃ探しに来ません!ほら行くわよ!あなたも!」


え。
……あれ?
どうして。


「――なんでお前がここにいるんだ?」

「それはこっちのセリフだ」


銀の瞳に微かな困惑を浮かべ、彼は言った。
やっぱり、きれいな顔をしている。
それでもやはり、どこか、どこか冷めていた。


* *


「それで?何か言い訳は?」


そういうわけでオレと――シルバーとやらは一緒に担任の前に立たされていた。
要するに、説教だ。


「言い訳ッスか…そうッスねー……ん?」


先生からは死角になる位置で、小突かれた。
こんな時に何か用かよ?


「すいませんでした。以後気をつけます」


彼は深く頭を下げた。
また小突かれた。
――ああ、そういうことか。


「すいませんでした」


彼にならって頭を下げる。
担任ははあ、とため息をついた。


「今回は多目にみてあげよう。今日はもう帰っていいよ」

「ありがとうございます」


再び頭を下げつつ、隣をちらりと窺う。
礼儀正しい、と言うよりは世渡り上手な感じがする。
また、小突かれる。
今度は何だ。
彼はすっと踵を返した。
ああ、戻るぞってことか。
――いちいち促しくれなくても。
やっぱり、

――変なやつ。

職員室を出て、教室に戻る。
彼のちょっと後ろを歩きながら問いかけてみる。


「お前、いつから屋上にいたんだ?」

「どうして、とは訊かないんだな」

「んー…まあそれも気になるけど。いつ?」


彼の口角が微かに上がったような気がする。
――気のせいか。


「お前が保健室に行くと出てった――二限目――が終わった休み時間だ」

「ふーん」

「……お前は?」

「オレ?――オレは、寝たかったから。陽の当たるとこで」


お、表情が変わった。
意外に変わるもんだな。
もっとクールなイメージがあったもんだが。


「……」

「なんだよ。急に黙りこむな」

「……あまりオレに関わらないほうがいい」

「は?」


いきなり話が飛んだ。
――どういうことだ?
追及しようとした時、タイミング悪く教室についた。


「もう二度と話すこともないだろう」

「お、おい――」


疑問符が頭の中に浮かぶより早く、鼻先でピシャリと扉を閉められた。


「……」


――同じクラスだっつーの!








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