3.











一番最初に反応したのはレッド先輩だった。


「今日は早かったねグリーン」

「物分かりが良い人だったからな」


レッド先輩はすっと湯気の立ち上るカップを差し出した。
――いつの間に。
グリーンと呼ばれたウニ頭先輩も虚を衝かれた顔をした。


「すまないな」

「レッドー、アタシのは?」


美人さんがにっこり笑った。
ヤバいヤバい眼福すぎる。


「ブラックでいい?」

「もちろん!ってあれ、シルバー?」


ぎくり、とシルバーは身じろぎをした。
てか知り合い?
レッド先輩がコーヒーを手渡す。


「シルバーはね、オレのお使いしてくれたんだよ」

「お使い?」

「そ。ゴールドを呼んで来てもらったんだ」


美人さんの視線がオレに注がれる。
ああ、と彼女の青い瞳が丸くなった。


「シルバーのお友達でレッドの後輩くんね。噂はいろいろ聞いてるわ、愚弟から」


愚弟?
あ、弟……
――弟っ!?


「シルバーの姉貴なんスか!?」

「あら?シルバー話してなかったの?」


姉に見つめられ、シルバーはぎくしゃくと目を逸らした。
おお、珍しい。


「前にも友達じゃない、と言ったはずだけど」

「そお?でもあんた嬉しそうに話してたから」

「ブルー姉さんっ!」


頬が少し赤くなっている。
あいつだって赤面するのか。
と、感心していたらレッド先輩につつかれた。


「口開いてるよ、ゴールド」

「あ…、いや珍しいこともあるもんだなって」


こんな彼を見たことがない。
会ってまだ3日、見たことない面のほうが多いに決まっている。
けれど、どこかしら現実離れしていた彼の雰囲気が目についたのも、確かだ。
そのシルバーが、今、姉のブルーに言い負かされている。
正直、頬が緩んだ。


「ブルー、あまりからかってやるな」


いじられすぎているシルバーが可哀想になったのか、グリーン先輩が口を挟んだ。
ブルー先輩は、くすくす笑いながらソファに腰掛けた。


「分かってるけど、可愛いんだから仕方ないじゃない」


ブルー先輩はオレに視線を向けた。
青く、深い瞳。
弟と違って切れるような鋭さは微塵もない。


「それであなたは入るの?」

「――姉さんっ!」


なぜかシルバーが声を上げた。
冗談じゃないと言わんばかりだ。


「…何にっスか?」

「何でも部よ。シルバーも昨日入ったの」

「何でも部…って何をする部活なんスか?」

「ざっくり言えば学校運営ね、生徒会を超越した」


レッド先輩が説明を付け足す。


「それと名前の通り何でもするんだ」

「何でも?」

「そ。雑用から学校費用の分捕りまで。ゴールドならバスケのピンチヒッターとか、あ、陸上もいけそうだよな」


何やら前半に物騒な言葉が聞こえたような気がする。
シルバーがじっとこちらを睨んでいた。
……目が、怖い。


「か…考えときます」


銀色の目が、丸くなる。
どうせ単純馬鹿っぽく『入ります!』とか二つ返事をすると思ったんだろーが、生憎そこまで単純じゃねぇんだ。
……特にさっきの目は軽くトラウマだ。


「できたら来週までには結論出してちょうだいね」


ブルー先輩は柔らかく微笑んだ。
失礼にならない程度に破顔して、軽く会釈をする。


「はい。じゃあオレそろそろ失礼しますね」

「またねゴールド」


レッド先輩が無邪気に手を振った。
ばたんと飴色の扉が閉まる。
オレはそっと息を吐き出した。


* *


「変なヤツだな」


ゴールドが去ってから、グリーンがポツリと言った。
嫣然と微笑む。


「そうね、変わってるわ」


何となく理解したつもりだった。
レッドの話と、シルバーの話から。
だから何でも部に二つ返事で入ると思っていた。
それなのに。


「考えときます、ですって」

「それはオレも意外だったなぁ」

「アタシもよ、まあ結局入ってくれると思うけど。……そんな顔しないのシルバー」


苦虫をつぶしたような顔をする弟に、思わず温かな笑みが滲む。
昔に比べれば、格段の進歩だ。
きっと彼の影響もあるに違いない。


「シルバー、あんたも戻んなさい」

「そうそう、今の時間は屋上が最高に気持ちいいよ」


にこやかにレッドが言った。
彼は天然の人タラシだとアタシは真面目に思っている。
男女限らず、たぶらかすというか誘うのが上手いのだ。
シルバーはこっくり頷いて、素直に出て行った。


「…人は見かけによらないものだな」

「いきなり…でもないわね。どうしたの?グリーン」

「お前の弟も、ゴールドとか言ったあいつも……心に何か重いものを背負っている」


いつもよりもなぜか広く感じれる部屋に、グリーンの言葉は淡々と響いた
思わず形だけの笑みが浮かぶ。


「……人間なんて、そんなものよ」


* *


「――おい!」


屋上へ向かう途中、聞き慣れてきた声に呼び止められた。


「……なんだよ?」

「お前本当に何でも部に入る気か」


端正な顔、赤茶の長めの髪。
印象的な銀の瞳は、僅かな聚巡が読み取れた。
階段を上る。
彼の足音がついてくる。


「そんなにオレが入るの嫌かよ」

「人には向き不向きがある」

「へーへー」

「化かし合いにお前は向いてない」

「たった3日間しか会ってないのに断言するなよな」


ちなみに不意打ちや化かし合いは大好きだ。
他人を驚かせた時のあの高揚感。
あれはクセになる。


「それに」


階段を上りきる。
振り返り、シルバーを見下ろす。
なめらかな銀の双眸と視線が絡む。


「オレはあの部活に入る気はないぜ」

「――!」






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