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――一週間前。
オレ達図鑑所有者はマサラタウンに集結した。
オーキド博士に呼び出されたのだ。
「いきなり呼び出したりしてどうしたんスか?」
ジョウト組、オーキド博士、ホウエン組、先輩たちで一つの机を囲んでいた。
「そうよね、あたし達だけならともかく、ルビー君たちもだもの。大事なのね?博士」
質問と言うか確認をしたのはブルー先輩だ。
――大事。
なるほど、そうかもしれない。
こんなに険しい顔をした博士は初めてだ。
みんなの視線に促されて、オーキド博士はゆっくり口を開いた。
「これはまだ、極秘の事じゃが、必ず起こる。それは絶対じゃ」
前置き。と言うことは複雑な話。
……まどろっこしい話は好きじゃない。
思わず口を挟んでいた。
「何が言いたいんだよじーさん」
「ちょっとゴールド!」
クリスがオレを睨む。
分かってる。
おめーの言いたいことは分かってっから。
ただオレは話が見えないのが嫌なだけなんだ。
博士は、咳払いをして再び話し始める。
「結論から言おうかの。君らに、戦ってほしいのじゃ。――いや、この言い方は正しくないのう」
「どういうことだ。おじいちゃん」
グリーン先輩だ。
先輩でも先を読めないのか。
険しい顔をしたグリーン先輩を、レッド先輩は心配そうな表情で見つめていた。
「君らは戦わざるをえなくなる、の方が正しいのう」
沈黙。
オーキド博士は静かに息を吸う。
「――……全てのポケモンが消えるじゃろう、それも、一週間以内に」
「!?」
空気が凍りついた。
信じられない。
信じられるはずがない。
消える?
全てのポケモンが?
――そんなバカな。
一番最初に口を開いたのは、レッド先輩だった。
「それは本当なんですか、博士」
「本当じゃよ、レッド。皆これを見てくれんか」
博士が白衣のポケットから写真を数枚取り出した。
みんなが身を乗り出す。
写真には黒い物体や研究員、大文字のアルファベットなどが写っていた。
「あっ!」
「どうした?イエロー」
「レッドさん…これ!」
イエロー先輩は一枚の写真を指差した。
皆の視線がその写真に集中する。
そこには、見覚えのある文字――R――が大きく写っていた。
「ロケット団…!」
「それだけじゃない。これを見ろ」
グリーン先輩がもう一枚の写真を示した。
それには、Gと書かれた何かの機械が写っていた。
「シンオウ地方のギンガ団…」
「その通りじゃ。その2つの組織が手を組んで極秘プロジェクトを進めている」
「それがポケモンが消えることに関わっているんですか」
ルビーである。
博士は重々しく頷いた。
「わしが掴めた情報はそれだけじゃ」
「でも博士、ポケモンが消えるってそげなこと…」
「調査の結果、大規模で強力なテレポートがこの国全にかけられているのが分かったんじゃよ」
「それは阻止できんとね?」
「……出来るならしておるよ」
「じゃあ全てのポケモンはロケット団とギンガ団に奪われるということですか?」
「そのとおりじゃ。だが彼らがそれだけのポケモンを何に使うのかは分かっておらん」
とりあえずポケモンが消えるのはテレポートのせいで、ポケモンは消滅するのではなく、ロケット団らに強制的に奪われるというところか。
……あれ?それじゃあ。
「おい、じーさん」
「なんじゃゴールド」
「オレたちどうやって戦うんだ?」
博士以外の全員が、あ、と虚を衝かれた顔した。
戦うのはポケモンだ。
ポケモンの技の影響をトレーナーも受けるが、あくまでトレーナーは作戦を考え指示を出すだけだ。
ポケモンがいなければ、どんなに優秀なトレーナーだってただの人なのだ。
オーキド博士は長方形の銀色の薄い箱を三つ、机の上に並べた。
「これがお前たちに授けたいものじゃ」
「これは?」
「君らの力――すなわち、ポケモンの替わりじゃ」
* *
「ほんとーにそんな超人的なことが出来るんスかね」
所変わって、研究所の裏庭である。
そこにオレ、グリーン先輩、野生児ギャルはいた。
共通点は、炎組。
それぞれの胸元には、先程もらったペンダントが日光を弾いている。
オーキド博士曰わく、『そのネックレスらには強靭な力が秘められている』らしい。
「ともかくやってみるしか――」
「こんな感じじゃなかと?」
「え?」
サファイアの手のひらに、火の玉が浮いていた。
目をこする。
どうやら見間違いではないらしい。
手を伸ばす。
「――あつっ!」
「ゴ、ゴールド先輩!」
「サファイア、それは?」
グリーン先輩に真剣な顔で問われ、サファイアはたじろぐ。
どうでもいいがかなり手が痛い。
「ひ、火の玉の事ば考えてたらこうなったとよ」
「ということは」
グリーン先輩がちらりとオレを見る。
促されなくても分かった。
「イメージっスね」
「だな」
ふっと息を吐いて目を閉じる。
頭の中に、火柱が浮かぶ。
天を衝くほど烈しい、それ。
次の瞬間。
ドォン、と地響きがした。
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