「博士、どこに行くんですか?」


レッド先輩が数歩先を歩くオーキド博士に質問する。
あれから私たち――草組とイエロー先輩は研究所の地下に降りていた。


「ここじゃよ」


そう言って博士は壁のスイッチを押した。
無機質な扉が開く。
博士が先に入って手招きする。


「君らは他の型よりちと複雑での。型の特性を覚えておるか?」

「はい。炎は攻撃特化型、水はバランス型、草は補助型ですよね」


私が答えると博士は頷いた。


「炎は水に弱い。水は草に弱い。その相性の悪さはどうしようもないが、草は少し例外での」

「じゃあ、草は炎に有利なの?」


エメラルドが目を見張る。
およそポケモンでは考えられない理論だ。
博士はうーんと唸りながら答えた。


「有利というわけじゃないが、君らが戦局を左右するのう」

「…なんでですか?」


レッド先輩は眉を寄せていた。
イエロー先輩も少し困惑を滲ませている。
ちなみに彼女は草組ではない。
もっと重要な役割があるのだそうだ。


「それはの、草は補助型だからじゃ。相手を絡め捕り封じ込め、痺れさせたり眠らせたりできる。他の型にない利点じゃ」

「それはそうですけど……」


相槌を打つ。
実戦していないのではっきりとは分からないが、草は他の二つの型に比べて圧倒的に攻撃力が欠けているらしい。
補う何かがなければ、相当苦しいのは当たり前だろう。


「それに君らには三人一組で行動してもらうからの。攻撃は他の二人に任せられるが、補助は他の二人にはできない」


オーキド博士は一度言葉を区切った。


「つまり君らがどれだけ機転を利かせられるかのほうが重要なのじゃよ」

「なるほど……じゃあ実際やってみていいですか?博士」


レッド先輩の瞳は心なしか輝いていた。
博士は頷いた。


「その為の部屋じゃよ。君ら三人で色々試してみるといい。イエロー、ワシと一緒に来てくれるか」

「は、はい!」


ポニーテールがひょこりと動いた。
彼女の首にも、ペンダントが揺れている。
博士と先輩は、さらに奥の部屋へと入って行った。
レッド先輩が爽やかに言った。


「それじゃ、始めようか!」


* *


「ふー…意外に難しいですね」


思い――想像を具現化し、戦う。
思い描いたものが現実になる。
その事実には慣れてきたが、なかなか思うようにいかない。


「でもクリス、いい線いってると思うよ」

「そうですか?まだタイムラグがちょっと気になるんですけど」

「…それは慣れじゃないのかなあ?」

「……レッド先輩はもう慣れたのか……」


エメラルドがぼそりと呟いた。
彼のむすりとした表情に、思わずふきだしてしまう。


「な、なんで笑うんだよクリスタルさん!」

「エメラルド君だってちゃんと出来てるわよ」

「そうそう!一応オレともクリスとも渡り合えてたし」

「一応じゃないよ!ちゃんと出来てたって!」


フォローのつもりが、さらにエメラルドをむくれさしてしまった。
そんな顔もおもしろいのだけれど。
さすがに大人気ないので、話題を転換する。


「…そろそろ他の組の出来を見に行ってみますか?」

「あ、オレもそれ気になってたんだ」


疲れた素振りもなく、レッド先輩はパッと顔を輝かせた。
依然として膨れたまま(やっぱり笑える)、エメラルドもこくこくと頷いた。


* *


――外は大惨事だった。
手入れされていた庭は焦げ痕と水溜まりが目立ち、未だに煙が上がっている箇所もある。


「……何がどうなったらこうなるの…?」

「「こいつのせいだ」」


ゴールドとシルバーが声を揃えて言った。
バチリ、と視線で火花が散る。
数歩離れたところでグリーン、ブルー先輩とルビー、サファイアが呆れ顔で立っていた。


「おまえが考えも無しにいきなり火柱をぶっ放すからこうなるんだろうが!」

「そんなタイミングで顔を突き出すおめーのが悪ぃ!それに水をぶっかけてきたのはおめーだシルバー!」

「髪の毛が燃えかけて庭も燃えていたら水をかける以外に一体何をするんだ!」

「そんなん放っときゃ先輩や後輩がなんとかするだろうが!」

「責任転嫁の上に他人任せか、最低だな!」


勢いがなくならない舌戦。
――よく分かった。
ゴールドが発端でこうなったのだ、と。
思わず溜め息が漏れる。
頑丈で直径五センチくらいの太い蔓を脳裏に描く。


「――うわあぁっ!?」

「――っ!?」


即座に地面から蔓が延びてきて、二人を絡め取る。
――絡め取るだけじゃこの二人には甘いわね。
スルスルと蔓が成長して、全身を拘束した。
バランスを崩して、どさり、と二人は地面に倒れ込む。
それでも尚睨み合う彼らに、釘を刺す。


「力を使おうとしたら痺れ粉を撒くわよ」

「「……」」


不承不承といった体で二人は顔を背ける。
背後でレッド先輩がエメラルドに囁いた。


「……クリスってすごいな」


エメラルドは猛烈に頷いた。
翠の瞳が輝いている。
パンパン、とブルー先輩が手を叩いた。


「全員そろったことだし、三人一組で実戦的にやってみましょうか」


先輩の提案はこうだ。
基本の三人一組はカントー、ジョウト、ホウエン。
そこから総当たりで実戦をし、慣れてきた辺りでメンバーをローテーションする。
ひたすら同じ三人で戦うより、メンバーが変わることで、個人の癖と隙を徹底的に無くすことに繋がるのだそうだ。
しかもその計画でいくと丁度一週間かかるらしい。


「どう?やってみる価値はあると思うけど」


勿論、全員異論はなかった。
それから一週間、私たちは修行に明け暮れた。




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