キセキな僕たち

□残り数pの愛言葉
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その瞳に映るモノを僕だけで満たしたいと思うのは我が儘なコトでしょう。
だけどほんの少しでも良いから僕を見てほしいという願いは我が儘にはならないはずだと思いませんか?
ねぇ、赤司くん。そう思いませんか?

某月某日。今日も空は広くて高い。
そんな中を僕等は外周中。
理由は青峰くんの馬鹿らしい言動が赤司くんの地雷を踏んだからだ。

「なんスか連帯責任てー!」
「まったくなのだよ」
「赤ちーん、お腹すいたよぉ」

みんなボヤキながらも赤司くんは絶対的な存在であるため仕方なく走る。けど、その視線は青峰くんに痛々しく向けられていると僕は前の方を走りながら耳だけ傾けて予測していた。

「っんだよ!文句あんのか?」

とうとう耐えきれなくなったのか。青峰くんが後ろを走るみんなを睨みつける。でも自分に非があるのを理解してるためか声に迫力がない。

「あるに決まってるでしょ!」
「…激しく同意」
「おーかーし!おーかーし!」

本当にみんな外周が嫌いなんですね。確かに楽しくはないですけどそこまで非難しなくても良いのに…。
アレじゃ青峰くんが少し可哀想に思います。まぁ、自業自得ですけど…。

太陽の日差しに目が眩む。思わず目を細めて空を仰ぐと今まで動きっぱなしだった足が自然に止まった。夏になりかけているこの時期の雲は大きい。手を伸ばせば触れられるような気がした。

「…赤司くん」

君も届きそうな距離にいてくれるのに決して届くコトはないんだよね。あと数pが大きすぎて気づけばまた距離が開いてる。先を悠々と歩く君はこんな僕には眩しくて追いつけないよ。だからどうか気づいて立ち止まって。そしたら捕まえるから。ちゃんと離さないように捕まえるから。

「なに休憩してるんスか黒子っち!」
「テツ!早く終わらせねーと赤司がまたギャンギャンうるせーぞ」

後ろをグダグダと走ってた黄瀬くんと青峰くんが額に汗を浮かべて我を忘れていた僕を現実へと引き戻す。そのすぐ後ろにはタラタラと走る紫原くんとそれを一生懸命に叱咤する緑間くんがいた。

「…足りない」
「はっ?」
「赤司くんが足りない」

確かに彼もキセキの中の一人なのに。どうして彼は此処にいないんだろう。やっぱり彼は僕たちとは違うんだろうか。彼は特別なのだろうか。どーして僕は…。そんな人に恋なんてしたんだろう。

「なにを言ってるのだよ」
「赤ちんならちゃんと居るでしょ?」
「えっ…」

風が小さく僕の髪とジャージの裾を揺らす。後ろから聞こえるのは小さな足音だけ。それは近づくにつれ速度を緩める。それが気になってその足音の方に顔を向けると顔をしかめた赤司くんがいた。

「赤司くん?」

なんで君がここに?そんな疑問も虚しく彼は小さな口を開く。その表情は酷く呆れた様子でそんないつもと変わらない彼の表情は僕の鼓動を早めた。

「何だ?僕がいたら迷惑なのか?」
「ちがっ…」
「だいたい遅すぎる!僕は早く戻って来いと言ったはずだ」
「そうでしたね」

歯切れの悪い僕の言葉が優しい風に吹かれて消える。途切れた会話にギクシャクした態度が痛い。赤司くんは今どんなコトを思っているのか。絡め取られた視線を彼の瞳に向けながらふと思った。

「テツヤ、なにかあったか?」
「どーしてそんなコト訊くんですか?」
「顔が…ー」
「え?」

「今にも泣きそうだ」

泣きそう?僕がですか?
笑わせてくれますね。僕が泣く訳ないでしょう。…泣く理由なんてないんですから。

「っ、おかしいですね」

泣くな。泣いたってこの距離が縮まることはないんだから。

震える肩を止めようと拳に力を込めて俯く。すると微かな熱が頬から伝る。驚いて顔を上げるとそこには何故か切なく微笑む赤司くん。その瞳には確かに僕がいた。

「すまない、お前達は先に戻っていてくれ」

その言葉に口元を弧の形にして走り去るみんな。口々に何かを言っていたけどそれらが僕に届くことはなかった。

「ほら、もう泣けるだろ?」

見た目よりもしっかりとした腕にそっと抱き寄せられ彼の薄い胸に顔を埋めるような体制になる。ドクドクと脈打つ音が心地よくて安心してしまったのだろう。僕の瞳からは透明な滴が流れて赤司くんの服に模様を作っていた。

「やっと捕まえた」

震えた声で笑いながらそう呟く僕。すると抱き締められる力が強くなる。只今の距離は約0p。嬉しくてまた涙が零れ落ちた。

「テツヤは馬鹿な奴だな」
「僕が…馬鹿……?」
「あぁ、お前は勘違いをしている」

「…ー捕まえたのはこの僕だ」

何を言うのかと思ったらやっぱり君には適いませんね。赤司くん。いつだって君は僕を幸せにしてくれる。今だってそんなコト言うから嬉しくて涙が止まりませんよ。

「ずっと赤司くんが好きでした」

「君が僕に光をくれたんです」

やっと言えた自分の気持ち。嘘で固めて消し去ろうとした感情。ちゃんと伝えられて良かったです。聞いてくれてありがとう。そして受け止めてくれてありがとう。絶対に忘れませんから。この温もりも感触も何もかも。僕は忘れませんから。

「僕もテツヤがずっと好きだった」
「嬉しいです」

「四六時中、目で追っていたよ」
「似たもの同士ですね僕たち」

「これからは僕の隣で笑っていてくれ」
「もちろん」

重なる手と手。それはどちらとも言えない程自然だった。近づく僕と赤司くんの唇。初めてのキスは触れるだけの子供じみたキス…。

「…そろそろ行こうか」
「はい」

僕等を繋ぐ愛言葉。永遠の愛言葉。
もう離してはあげないよ。何があっても君は僕の所有物だ。

愛してる…。

僕よりも少しだけ大きい背中になんとなく投げかける言葉。君は気づいただろうか。まぁ、気づいてなくても良いケドね。これからたくさん言ってあげるつもりだから。

だから、ね。

覚悟しといて下さいよ赤司くん。



(捕まえたのは君)
(手放さないのは僕)

 

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