キセキな僕たち

□排他的ヒステリックBoy
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離れないでほしい。自由にしたい。
愛してあげたい。壊してしまいたい。
笑ってほしい。困らせていたい。

いったいどれが本音で建て前だろうか。きっとわからないからこんなに苦しいんだね。でも今の関係を崩すのが怖いから僕は何も言おうとしない。たとえ彼の愛が僕の求めたものじゃないとしても構わない。ただ側にいさせて…ー。



5月中旬のコト。まだ少しだけ肌寒い校舎裏でソレは起こっていた。

「お前マヂなんなの?」
「存在自体ウザイんだけど」
「消えろよ!アハハハ」

集団リンチ。けして胸くそ良いものじゃないその行為がソレの答えだ。別に僕は悪いコトをした訳でも迷惑をかけた訳でもない。だけど彼等は僕の態度が気に入らないからリンチをするらしい。なんとも単純で能率の悪い憂さのはらしか方だ。バカバカしくて最早笑えない。

「子供…?」

つい喉を通って思っていたことが言葉になってしまった。するとまた下劣で汚い言葉の数々が僕にとびかかる。そんな彼等が滑稽に思えて漏れた溜め息。見事にそれは彼等の神経を逆撫でしてくれた。

「生意気なんだよ!」

ーバッ

逆上した1人の男子学生が大きく手を振りかざす。そしてそのまま勢いよく僕を傷つけるために振り下ろされた。叩かれる。そう頭ではわかってるのに動かない体。対照的に目だけは宙をさまよい虚ろに揺れ動いていた。

ーがしっ

重たい音が耳に木霊した。でも痛みは感じられない。僕の目に映る2つの手。それは僕を傷つけようとする褐色の良い手とその手を押さえつけて離さない真っ白な手。

「…何をしているんだ?」

穏やかで優しい綺麗な声が凛々しく響き渡る。でもその声の持ち主に笑顔はない。ただ怒りの感情だけが眼孔を光らせていた。

「う、うわぁ!」
「なんで此処に赤司が!?」

恐怖と驚きの色を浮かべ後退りするリンチ集団の皆さん。可哀想に…。不覚にもそんなコトを呟いてしまう程その姿は哀れで弱々しいものだった。

「3秒以内に消えろ」

威圧的な言葉と共に聞こえる足音。それはすぐに小さくなり消えてしまった。

「少し来るのが遅かったかな」

小粒ぐらいになった彼等の背に目を向けそんなコトを言う赤司の顔は笑っていた。天使みたいな端正な顔で悪魔みたいな言葉を吐く赤司が僕は好きでたまらない。

だけど僕に対してだけ君は優しくて甘ったるい言葉を投げけるよね。それは僕が君の特別だからですか?理由を言ってよ。じゃないと期待してしまうじゃないか。ほら、今だって君がそんなに優しくするから恥ずかしくて顔が見られない。

「怪我は…ないみたいだね……」

腕を引かれ縮まる距離。何かと思えば赤司はそっと僕の頭を撫でてくれた。その途端に上昇する体温と早まる鼓動の音。気づかれたくなくてつい肩をど突いてしまった。

「…どうした?」
「赤司に守られたくない!」
「そうか」
「いつもいつも迷惑なんだよ」

違うんだ。本当はいつも嬉しくて嬉しくて迷惑だなんて思ってない。

「もう僕に構わないで」

嘘だよ。離れていかないで。赤司がいないと僕どーして良いかわからなっちゃう。

「すまない、これからは気をつけるよ」
「…っ」
「だからそんな顔はするな」
「うっさいバカ」
「…はぁ」

伝えたいコトとは反対のコトしか言えない僕は相当面倒くさいと奴だと思う。それに赤司は僕のこれが本音だと勘違いしてるから謝ることが増えた。だからかな。たまに彼が疲れたように深い溜め息をつくのは…。

その度に僕の心は大きな杭を打ち込まれたみたいに悲鳴を上げ泣き叫ぶ。自分が悪いのにね…。傷つくなんて身勝手すぎる。頭ではそう思うのに体は正直で。痛みはなかなかひいてくれない。

「壱琉」

名前を呼ばれるだけでこんなにも愛しいと感じるのに。あぁ、もっと…。もっと君に近づきたい。

そっと手を伸ばし赤司の髪に触れようとする。すると赤司は横目に僕を見て不思議そうな表情を浮かべた。

ーガリッ

見つめられているのが恥ずかしくて。綺麗な瞳に映る自分が嫌で。赤司の赤い髪に触れようとした僕の手は彼の白い肌を無意識に引っ掻いていた。

赤司の頬から紅い鮮血。その鮮血を指で拭いながら彼はそっと呟いた。

「壱琉は僕が嫌いなのか?」

力ない言葉は風に吹かれ空へと消える。赤司の顔が切なそうに歪んだ。否定をしたいのに声がでてくれない。そしてやっとでたと思ってみれば…ー。

「そうだよ」

否定ではなく肯定の言葉。本当に僕は駄目な奴だ。こんな大切な質問にさえ本心を伝えず赤司を傷つけて…。

「っ、今まですまなかった」

掠れた声で呟いた言葉を無造作に残して走り去る赤司。僕には止める資格も追いかける心の強さもなかった。



でもあの時ちゃんと引き止めておくべきだったんだ。そしたら彼はまだ僕の側で笑っていてくれたかもしれない…。

激しい後悔と胸を裂く程の痛みを患うのはこの出来事のもう少しあとのコト。







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