キセキな僕たち

□排他的ヒステリックBoy
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「…っ、赤司!」

上がりきった息で言葉がつっかえる。肩で呼吸を整えようとすると肺の辺りが痛んだ。乾いた喉にかんじる熱。唾液を飲み込むとそれが緩和されるのがわかった。

「よく此処がわかったね?」

振り向かずそう言う赤司の背中が小さく見える。錯覚だと理解してるのにそれがとても痛々しく思えて伸ばした手。その手は少し躊躇して彼のブレザーを掴んだ。

「ははっ、抱き締めてはくれない…か」
「…っ!」

自嘲気味に笑う赤司はいったいどんな顔をしているのか…。それだけが気がかりで掴んだブレザーをもっと強く握る。伝えたいのに声がでない。それとは裏腹に呼吸をする音は大きくなる。

伝えないと…。早く伝えるんだ。手が届いてる今の内に言わないと絶対言えなくなるだろ。

汗ばんだ手から伝わる赤司の体温。この温もりを手放さないためにと焦る僕の気持ちになかなか頭はついていかない。それでも伝えようと微かに声を発してみる。そんな僕に気づいたのか急に振り返った赤司は泣きそうな笑顔で優しく言った。

「もう十分だ…」

ーギュッ

「今までありがとう」

感謝されることなんてしてない。むしろ感謝してもしきれないのは僕だ。なのに君は体を小刻みに震えさせ哀愁たっぷりのそんな言葉をくれる。別れを肯定させるような言葉を添えて…。

体中で感じている赤司の温もりが離れていくのが瞳を閉じていてもわかる。行かないで…。そう掠れた声で言ってみてもそれに赤司が応える様子はない。きっと聞こえてないんだね。小さすぎる僕のSOSは。

虚しくなって霞みだす視界。どんどん遠のく愛しい人の背に手は届かないまま。大きくなる距離に比例して膨らむ感情。これが恋なのかなんて呑気なことを心の片隅で思った。

もう、なんだって良い。赤司の側にいられるならなんだって…。

「赤司!」

そう叫んで赤司の背を追いかける。振り向いた彼は無表情だった。だけどそんなことお構いなしに赤司の体を抱きしめる。いつもの赤司の匂いに安心した。

「な、んで…」
「赤司がいなくなったら独りになるから」
「…?」
「独りになりたくないんだ」

お願い…。気づいて。これが可愛くないヒステリックな僕の精一杯の告白なんだ。好きとか愛してるとかは言えないケドその分抱き締めてあげる。たとえ年をとってもこの先何年も君が望む限りずっと。ずっと抱き締めてあげるから…ー。

「後悔しても知らないよ?」
「後悔なんてしない」

「随分と自信があるみたいだね」
「当たり前だろ?」

「もう、絶対離さない…ー」
「うん、離さないで…ー」

まるで永遠の愛でも誓うかのように重なり合う唇と混ざり合う吐息。そんな時、ふと定めきれない感情に襲われ涙が流れ出した。

あぁ、おかしいな。感情が欠けているヒステリックボーイはこんな風に嬉し涙なんて流さないはずなのに。どうして今はこんなにも頬を濡らして止まってくれないんだろう…。

「怒ってばかりの僕のヒステリックボーイ」

「どうか僕には笑顔を見せてくれ」

その言葉に返事は返さない。だから変わりとして首筋に強く噛みついた。滴り落ちる甘美な味わいの鮮血。赤司は苦痛に耐えるような声を洩らしたものの優しく僕の頭を撫でた。

傷つけ。傷つけられる。そんな歪んだ関係にだって愛を足せば幸せだろ?少なくとも僕と赤司は幸せだ…。だからきっと僕と赤司はこのまま変わらない。

未完成な僕たちの恋。

発展途上にあるそれはやっぱり汚く歪んでいた。






(素直になれないから傷つける)
(愛されたいから傷つけられる)



おまけ→


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