道草少女

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先生かと思われる男性が、私を一般世間で言うお姫様抱っこで抱え保健室へ向かっている。
正直かなり痛いが、自分でどうにかなるレベルの傷だ。だから早く下ろして欲しい。


なによりものすごく恥ずかしい!!


こんなこと霙たちにだってされたことはない。やられたとしたらおんぶくらいだ。

保健室へ行って早く消毒しなきゃいけませんね。なんていう割にはあまり焦っている様子も伺えない。
むしろどこか楽しげだ。
一体何なんだこの人は。

ついた保健室はなぜか私が怪我をした校舎より離れている私たちの学年のある棟だった。

そしてひとつの可能性が思い浮かぶ。

「(もしかしてこの男・・・)」
「はい、足見せて」

私は少し警戒をしながら怪我をした部分を見せる。
彼はテキパキと丁寧に傷の治療をしてくれた。

その間。お互いに口を開くことはなかった。

一番ひどい膝の傷に消毒液のかかったガーゼをつける。

「っ・・・」

消毒液がしみて思わず顔をしかめる。こんな怪我いつ以来だろうか。

あの時はシロナさんが連れて行ってくれたポケモンセンターでジョーイさんが治療してくれた。
でもあの時はそんな怪我なんか痛いと思わなかった。むしろ胸が、心の方がチクチクと針を何度も何度も刺されているようで痛かった。

「大丈夫ですか?」

いきなり話しかけられ彼の顔に目を向ける。
彼は「おわりましたよ」と微笑み私の足に顔を向ける。怪我は絆創膏など貼られていて、足首にはテーピングもしてあった。
きっとひねったのだろう。さっき立つときにもかなり痛みが生じたし。

「あの・・・ありがとうございます」
「いえ、これが僕の仕事ですしね。
僕、ここの棟担当の保健の先生をしています、阿部誉です。よろしく」
「(阿部誉!こいつが・・・)

・・・よろしく、お願いします」

差し出してきた手をゆっくりと握り返す。
確かに噂の通りのイケメンだ。それに窓から差し込む夕日の光で独特の色気を醸し出している。
女子生徒が惚れないわけがないとはこのことだ。

握手していた手が離れると阿部誉は立ち上がり、作業をしながら話し始める。

「確か君は最近この学園に来たアコさんですよね?君とは一回話してみたいと思っていたんですよ」
「はぁ」
「そんなに警戒しないでください、紅茶をお入れしますから、飲んでいってください」
「ありがとうございます・・・」

彼はポットにお湯を入れ小さなコンロで沸かし始めた。
そして台に寄りかかりこちらを見る。彼が何がしたいのか全くわからない私はただ首をかしげるだけだった。そして彼もそれがおかしいのか目を細めて微笑む。

ここで彼から何かを聞き出したいが、こんな空気になってしまってはどう切り出せばいいかもわからない。
沈黙が過ぎる中、ポットのお湯が沸き阿部誉はそれをいれ始める。

あたりには紅茶のいい香りが漂い始める。そのおかげかいくらか私の肩の力が抜ける。

「どうぞ」

マグカップに入った紅茶を差し出されそれを受け取り口にした。

「おいしい・・・」

思わず声を出してしまう。それに阿部誉は律儀に「ありがとう」というものだから恥ずかしくなった。なんだか頭がぼーっとした気がした。
阿部誉も紅茶を二三度口にし、また話し始める。

「アコさんはポケモンバトルがすごく強いらしいね。あの丸井くんにも勝っただとか」
「強いかはわかりませんが、でも好きですよバトル。ブン太も強かったです」
「そうか、そういう純粋な思いがあるからどんどん強くなれるのかもね」
「はは、そうだといんですがね。

そういう阿部先生は生徒たちから人気らしいですよね。噂なんかもいろいろ聞きましたよ



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