道草少女
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「くそ!!」
ガンっとゴミ箱に蹴りを入れるのはアコに惨敗した小杉萌だった。
先ほどの対戦で負けたことが非常に気に食わなかったみたいで、イライラする気持ちをところ構わずぶつけていた。いわゆる八つ当たりだ。
ゴミ箱は音を立てて地面にころがり、その中身をバサっとはき出す。
そんなこと気にせず、小杉はゴミ箱を何度も何度も蹴り続ける。
「そのへんにしたらどうです?」
「・・・なんの用よ」
後ろから声をかけたのは、学園で人気の先生の阿部誉だ。
だが彼の様子はいつもの優しい感じとは違い、どこか冷たく怪しい感じの雰囲気を醸し出していた。
だがそんな彼に違和感も興味も抱かずに小杉は同じ行為を繰り返した。
やれやれと阿部は口角をあげて更に続けた。
「そんなに悔しいのですか、あの子に負けたことが。
それとも、テニス部の連中とちやほやできなくなるからですか?」
「うるさいわね、大体こんなとこでいつまでも先生ごっこなんかしてんじゃないわよ、アポロ」
その名前を放った瞬間、阿部誉もといアポロはニヤリと不敵に笑う。
アポロは散らばったゴミをよけずに踏み潰しながら、椅子に向かった。そしてその椅子に背を深く傾けて、小杉の方に向かい合う。
「それはあなたもでしょう、コスモ。
それにしてもロケット団幹部の一人である貴方があんな小娘に負けるなんてなんとも情けないですねえ」
小杉萌もといコスモはイライラして寄っている眉間のしわをさらに寄せ、鋭い目でアポロを睨む。
「あんただって、あの女の正体を突き止めようとして結局あの仁王に邪魔されたんじゃない」
その言葉にアポロもカチンと来たのか、アポロの目が細められる。
お互いに睨み合いを始めるが、それは先に目をそらしたアポロによって終わる。
アポロは椅子から腰をあげて部屋を出ていこうとゆっくりと歩き始める。そんな彼をコスモは依然として睨みをきかせて見続ける。
「で、なんの用よ。
こんな薄暗いとこにあんたがわざわざ足を運ぶなんて、それなりのことがあるんでしょ」
「まぁそうですね。私自身も今回が初めてのことですから、どうなるかわからないのですが・・・」
「もったいぶんじゃないわよ」
イライラしているコスモを馬鹿にするようにアポロは鼻で笑う。それが聞こえたコスモはチッと大きく舌打ちをするも大人しく彼の言葉を待った。
彼もまたいがみ合いをするほど暇ではないといいながら、続きを話し始める。
「明日ゲストが来るんですよ」
「は?」
「まぁ、サカキ様が最終的に合意したことなので口出しも何も出来ませんが、たのしみにしててください。計画には何ら問題はないですよ。
それじゃ」
しずかに閉じられた扉をコスモはじっと見ていた。足音がどんどん遠ざかるのを確認して、大きく息を吐いた。
コスモはアポロが苦手だ。何をどこまで考えているかが全く読めないからだ。それに全てを、その先のことまでも理解しているようで・・・。
現に今回イラついていたのはあのアコとかいういきなりこの学園に来た女子生徒に負けたこと、せっかく手に入れた色違いのサーナイトを装置を壊されたことによってすぐに使えなくなってしまったこと。それにテニス部の彼らと接触するための橋がなくなってしまったこと。
顔のいい男は好きだ。女なら一度だって顔のいい男と絡みたいものだ。でもその願望は人一倍強いもので、部下を自分ごのみのもので選抜したとしてもその欲求は満たされなかった。
そんな時に目に付いたのがあのテニス部だ。もともと生徒として紛れていたため普通よりは接触しやすい。だが彼らには寄り付く女が多いみたいで、あまり過剰に絡もうとはしてはいなかった。
そして考えたのがあちらから興味を仕向けること。
そのためにポケモンのことで何かしら目立てば話しかけられると思った。彼らもまたポケモンバトルで活躍し、よく上位の生徒と情報交換をしたりしているのを見ていた。
地方の仕事でロケット団で開発した装置を使い色違いのサーナイトをゲットして学園で使用したら予想通り、テニス部のやつらと仲良くなることができた。
彼らは“色違い”そしてカントーでは珍しい“サーナイト”ということに興味を示した。
思い通りにことが進みすぎて笑いが止まらなかった。
毎日が楽しいことこの上なかった。
けれどもあの小娘のせいでいとも簡単にそれは壊された。そしてなにより、そのポジションをあの女に奪われつつあるのだ。
そんなの面白くない。腹が立つ。
だからこそあの女に仕返しをしてやる。
「ふふふ」
そしてまたあの楽しい毎日を取り戻すのだ。
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