道草少女

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会場は少しの休憩時間に入っていた。
優勝者の幸村の周りには大勢の人間が押し寄せていた。幸村はその中心ではにかむように笑っていた。それでも、幸村自身はあまりこの結果に納得いっていなかった。審判の勝敗の声が聞こえた時のアコの表情だ。安心したような、母親が子を見守るような、あの顔が気に食わなかった。
なんでだ。君は俺に負けたんだ。ほぼ自分の思うように動けず、圧倒的な力で君は負けたのに、なんでそんな顔をするんだ。もっと、負けたら負けたらしく悔しい顔をしてくれよ。あの時の俺のように。もっと、もっと!
しだいに幸村の表情は曇り、隣にいた友達が心配の声をかける。それに大丈夫と答えるも全然表情は変わらない。

「次も試合があるから、少し外の空気でもすってくるよ」

少し疲れたように息を吐き、その場を移動しようとする。友達も幸村が今の状態を変えようとして行動していることに気づき、首を縦に振る。

「そうだな・・・。羨ましいぜ、チャンピオンと試合が出来るなんて」
「はは、ありがとう。また後でね」


周りの生徒たちは観客席に戻り始め、それぞれ違う話題について話し始めていた。さっきの試合のこと。自分の成績。ダイゴのこと。そして次の幸村とダイゴの試合のこと。
しかしそのダイゴは、試合前にトイレに行っておきたいと言って、まだ帰ってきてはいない。そのことに審判の先生と司会の生徒が焦っていた。
先生はその場を行ったり来たりしていて、生徒はうーんと頭を抱えていた。

「やっぱり僕が案内したほうがよかったんではないでしょうか!
仮にダイゴさんの指名だったとしても、彼は誰にでもイタズラすることはみんな知っていますし」
「けどなぁ・・・。チャンピオンとしてゲストに来ている。それにあのツワブキの息子だから下手なことは言えないんだ。
それに、あいつもこんなでかいイベントでそんな馬鹿なイタズラはしないだろう・・・だぶん・・・」
「ほら、先生も信用してないじゃないですか・・・」


生徒がそうぼやくと先生は鋭く睨む。その視線を合わせるどころか見ようともせずに入口の扉をジッと見つめる。
するとどうだろうか噂をすればなんとやら。ダイゴは扉を開け、その男と楽しそうに談笑しながら帰ってきたのだ。

すぐさま二人は駆け寄り、ダイゴさんに詰め寄る。

「ダイゴさん!トイレ行くのはいいんですけどもうすぐ試合始まっちゃいますよ!!」
「ああ、すまない。彼と話していたらつい夢中になっちゃって」
「・・ぷぃ」
「そうですか、仁王になにかされたりはしたわけではないのですね」
「はぁ、」
「では、ダイゴさんそろそろスタンバイしましょう!こっちです」


生徒はダイゴの腕を引っ張り行ってしまった。先生はその後ろ姿を少し見たあと自分も審判の役目を果たしに歩いて行った。
ぽつんとその場に仁王だけが残ったが、仁王の顔は珍しく、悲しそうな顔になっていた。そのことには誰も気づきはしなかった。



「さぁ、ここからの試合は特別ゲストのダイゴさん、我が校最強のトレーナー幸村精市との試合です!!盛り上がっていきましょおおおお!!」

先ほどの緊迫感はないものの会場の盛り上がりは勢いが衰えることはなかった。
幸村は先程よりはすっきりした顔をしてはいるが、この展開に喜んでいるふうには見えなかった。一方のダイゴは自信があるのか、いつものキメ顔でグローブをはめ直した。

「それでは、試合開始!!」
「いけ、ボスゴドラ!」
「メガニウム!」

幸村はそのボスゴドラを見た瞬間、顔に水をかけられたように頭が冷えた。
目の前のポケモンは見てるだけでその強さが伝わってくるからだ。そのおかげか少しだが心に熱が戻ってくる。こんなチャンスまたとないんだ。そう言い聞かせて、ちらりとダイゴの方を見る。

「(あれ)」

何かがおかしいと思った。だがそれはほんとに一瞬のことで、すぐに意識はボスゴドラとメガニウムに向けられた。

「ボスゴドラ、ボディパージ!」

その声に気が引き締まり、負けじと強気で指示を出す。
その様子にダイゴはニヤリと笑った。


・・・・


そのころ、明日香と真理の元にまたもや丸井が来た。
試合中なので丸井はその場に腰を落ち着けるが、二人にアコは?とたずねる。二人も休み時間中にさがし会ったが、後でもどるから一人にしてくれと言われたという。
だが未だに戻ってくる気配はなかった。



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