道草少女

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彼女の目からは涙が流れているような気がした。こんなぼろぼろな体で、何かに怯え逃げ回っている子を助けないなんて選択肢は最初から私たちにはあるわけがなかった。
とりあえず、まずは話を聞こう。
拠点となる場所へ移動する。その時も周りへの警戒は決して緩めず、この子を守る。その考えしか頭になかった。
拠点についたところで見張りを白夜と流星に任せ、蓮華はメタングのそばへ寄り添い。それぞれがなにかかしらの役割をもって、彼女の話を聞く準備が出来た。

「さて、話といっても本当に大丈夫?さっきは震えて喋ることもできなかったけど・・・」

蓮華にさすられる彼女はさっきよりも落ち着きを取り戻し、コクっと一回頷く。それからもう一度自分自身に確認するように「大丈夫です」そうつぶやき、話をゆっくりと確認するようにし始めた。



私はもともとホウエン地方にいた。少し体が小さくて引っ込みじあんなとこもある。そのせいか近い年の子達にからかわれることもたくさんあったけど、決していじめられるということはなかった。ちゃんと“友達”として私に接してきてくれていた。そう、何不自由なく暮らしていた。けれどそんなある日、ギンガ団というやつらが辺りのポケモンを襲い、連れて行った。私もその中に入っていて、友達とも一緒に入れなくて・・・隔離されてとうとうシンオウ地方まで来てしまった。そこでは私たちや違う種のポケモンたちを使ってなんどもなんども実験に使われてた。傷をつけられたり、変な番号を入れられたり、無理やり戦わせられたり、変な薬だって打たれた。電気を流されてなんどもなんども瀕死状態になったけど、その度に無理やり起こされて。暴力だってその度にされた。それに私はみんなと違って小さいから・・・余計に罵倒とか暴力とか受けてた。
もう、死んだほうがましだって何万回も思った。でも、皆といた時を思い出すと、そんな気持ちも吹き飛んで、また一緒にふざけたりしたくて。だからずっとそこから逃げる隙を伺っていた。だっていくらバラバラでもポケモンが人間に負けるなんて思ってなかったから・・・。そしてとうとう逃げるチャンスが来て、私は逃げ出した。本当は友達も一緒にって思ったけど、でもそんな余裕なくて、故郷に戻ってみんなに助けを求めればなんて単純なこと考えていたの。
無我夢中だったから、とにかく遠くに逃げようと思って何処へ向かうかもわからない貨物列車にのってきた。気づいたらここの地方に来ていて、故郷に戻る方法を探していたら、すぐに奴らがおってきて・・・で・・・・・

[あなたたちに・・・あったの]

話が終わった彼女の目線はゆっくりと地面に戻り、また口を閉じてしまう。想像以上の出来事だ。ギンガ団。そんな団体あるとは聞いていたが自分が関わるなんて一切思っていなかった。奴らはいわば社会の裏の存在。社会の裏は表の人間としては一切関わらない。むしろ自分から足を踏み入れない限りその存在すら認識はしない。一同が沈黙する中、彼女の顔が急に上がった。私たちにも何が起こったのかわからない。彼女も何かわからず自分の背中を確認しようとするもできなく、その元凶であろう蓮華を見上げた。

『うう・・・うわあああああん!!』
[え]

蓮華は大泣きしながら彼女に抱きつき、さらに力を込める。こんな大声を出されては警戒している意味がない。私と霙がしー!!とジェスチャーするが、蓮華も蓮華でこの気持ちをどうすればいいのか分からず、ひっくひくと声が抑えきれずにいる。

[なんであなた泣いて・・・]

予想だにしないことだったんだろう。未だにどうしていいのか分からずオロオロしている。

『そこの能天気くるくるパー女はですね、誰の気持でも自分のこととして同じように考える馬鹿なんですよ』
『の、のうでんぎっ、ひっく!おんだじゃっ!ひっくううう』

犬猿の仲の二人らしい会話だが、その中には硬い信頼があることはメタングにもすぐに分かった。その関係が、自分のことを思って泣いてくれる彼女らが、羨ましいと思ってしまった。

「それで、私たちは君にどうしたらいいかな。」
[・・・・]
「故郷まで送り届ければいい?それともギンガ団から上手く逃せばいい?」
[・・・私は。私は・・・・友達を助けたいし、でもギンガ団にももう会いたくない。故郷に帰りたい・・・。
ホウエンに無事帰りたいの。だから・・・一緒にきてほしい]

とにかく、まずは故郷へ帰りそれを報告してどうにかするということだろう。一人で銀河団へ立ち向かうなんて無謀ではない。それはもうバカの領域だ。

「分かった。ホウエンへいこう!」

そう、そのときは希望に満ちていた。いくら裏の社会への道へつま先をつけても、それは入ったとは認識していなかったのだ。ただの自分の思い込みだ。
そう、思い込みというだけで結局は自分の尺度でしか測っていなかったのだ。

「そうと決まればまずは外へ出てポケモンセンターへ向かおうか。準備をしなきゃね」
[よろしく、お願いします]
「よろしくね!」

見張りのふたりを呼び戻し一連のことを説明する。皆をボールへ戻す。本当はメタングも一時だけボールに入れておいたほうが安全なのだろうが、ちょうどボールがない。新しい仲間を迎え入れる気がないからだ。
ともかく、外へ出るため穴抜け紐を用意する。これでいくぶんかは人との遭遇率が減るだろう。穴抜けひもを使って一気に出口へ向かう。

目を開けると久々に見るであろう太陽の光は感じられなかった。どういうことだろう。それもすぐに分かった。周りを何かが囲んで光が全くと言っていいほど入ってこなかった。それは大型ポケモンたち。そいつらは明らかに敵意をむけてきている。私の周りに光が溢れ仲間たちが一斉に出てくる。
だが、それもすぐに分からなくなってしまった。首元にちくりと小さな痛みが走り、その途端に意識が遠のいた。何も考えられない。これはいったい。

皆は?メタングは?最後に目の端に写ったのは三日月のようにつり上がった口元から見える、歯並びの悪い口元だった。



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