道草少女

□24
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会いたくはなかった。けれども本能的にこの男とまた会ってしまうということは分かっていたのかもしれない。多少の驚きや嫌悪感だってもちろんある。でも驚くほど冷静でいられるのは、そういうことなのだろう。

私たちのトラウマでもある、マッドサイエンティスト、ワイリー。あの時よりは少し痩せているような印象を受けるが、その汚さは何も変わってはいなかった。大方、ロケット団が脱獄の手引きをしたのだろうが、何故この男が必要なのかわからない。
ともかくだ、まずはこの状況をどうにかしないといけない。私の体は縄で縛られ、床に寝転がっている状態だ。それ以外には拘束道具はない。となるとどうやってこれを切るかだ。

「ぶひゅ!あのときのように怯えてはないんですねぇ、ぎゅふふ!」
「まぁ、私も成長してるしね」

いや、嘘だ。本当は対峙してる今も怖い。気を抜いたらあの時のようになりそうだからだ。それでもこの気力を保っていられるのは、もはや私の意地だ。もうあんなことになりたくない。何もしないまま誰かに助けられるのは、もうたくさんなのだ。だから・・・。

「あんた、またおんなじ研究してるの?」
「おんやあ!!あたしに興味を持ってくれたんですかああ!?ぎゅふ、うれしいですねぇ。
あたしは心が広いですからお話してあげますよ!!」

よし、これで少し時間を稼げる。さてどうやって蘭を助けるか。蘭は今、研究台の上で寝かせられている。すこし傷が見える、きっと抵抗したに違いない。それにすぐに逃げられないよう、研究台にベルトで押さえつけられている。助けるためにはまず自分が、この縄をきらなくては。あいにく私は刃物のたぐいも、尖ったものも持っていない。(もっていたとしても、取られているだろうが)さっと辺りを確認する。

「あたしの研究を理解し、更には援助を申し出てくれるんですよお!ギンガ団もそれなりには自由にさせてくれましたがあ、ロケット団はもっと自由にやらせてくれるんですう!あひゃひゃひゃ!わざわざあたしがポケモンを取りに行かなくても、しぜんともってきてくれますしい」

やつの話をなるべく聞かないようにして、あたりをよく見て、必死に頭を働かせる。椅子に蛍光灯。ドアに、たくさんの棚。その中にはたくさんの薬品や、なにかの部品が所狭しと並んでいる。あいにく、床に寝ている状態にあるため、見えない部分もある。そういえば、前はあいつメスを使っていなかったか?あの実験を今もやっているならそれもどこかにあるはずだ。それもきっとあいつの手元。研究台にあるだろう。
あいつに体当りして、不意を付き、一瞬で縄を切る。いけるか?そんな一瞬で多くのことをできるか?もしメスがなかったら・・・。いや、それが今一番の得策だろう。幸い、あいつは未だに自分のことを語っている。話もいつの間にか研究の需要のことになっている。
やつをじっくり見る。一瞬の隙だ。迷っている暇はない。

「ですからあ、この研究はけえええっして私の」

やつは何かを訴えるように両手を振りながら後ろを向いた。
今だ!!
腹筋と勢いで状態を立て直し。なんとか立ち上がる。そしてダッシュでやつに近づき。振り返ろうとするあいつに思いっきり、体当りした。

「ふがあああああ!!!」

やつの巨体は思っていたよりも簡単に倒れ、私はその上に倒れ込むことになる。予想通りの匂いに無意識に眉が寄る。体をよじり、態勢を先程と同じように立て直しメスを探す。

「どこに!」

落ち着け、ここで焦っては折角のチャンスが無駄に!もう一度あたりを見る。今度は床から見えないところもよく見渡せる。
目がついたのは研究台の横にある銀の小さな棚。キャスター付きで移動できるようになっている。急いで駆け寄り、棚を開ける。予想通りそこには医療器具がズラリと並んでおり、一本をとる。焦りからか、やったことないことだからか、思うように縄は切れてくれない。くそ、早くしないと。
やつを見る。だがやつは起きていない。未だに床に倒れており、動く気配もない。
どうしたんだ?近づき顔を見てみると、目を閉じていた。心臓は動いている。もしかして気絶したのか?いや、ただの体当たりだぞ?頭を床にぶつけたというのも・・・。離れてその場所を見ると、ちょうど棚の真下だった。ということは、可能性としては壁にぶつかったのか?必死すぎてよく覚えていないが、それが一番現実的だ。

「まぁ、今のうちに」

気持ちも少しは落ち着き、メスで残りのロープを切った。
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