道草少女

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仁王side

この至近距離で話すのを躊躇っていたアコもといアンコ。
最初はりんご見たく真っ赤になって可愛くてからかいがいがあったのにちょっとつまらない。
でも彼女の話はここで生活している俺からしてはとても考えられないようなものだった。

いや、それっぽいのはもう何度も見かけていた。ただ、俺自身それを信じなくなかったのかもしれない。

ここの学園に来るのは正直嫌だった。長い間家族に会えないのだ。手紙は許されているが面会は許されない。
なによりこの学園の外に自体出れない。そのことで自分は罪人にでもなったかのような気分になった時だってある。

でもそんな中家族とも呼べる仲間に会えた。その中でそいつらが何より大切で、互いに支え合って今日まで暮らしてきた。
そんな輪を崩されるかもしれないと危険を察知したのは一昨年の冬。

阿部誉が一人の女子生徒にいいよって自分のものにしていた。女もまんざらではなさそうだった。
その女とその女のポケモンは次の日からおかしくなっていた。
今までとは全く違う行動、思考。そして阿部誉にだけ忠実な態度だった。

まるで催眠術にでもかかっているかのような感じだった。

それからだ、俺が阿部誉を警戒するようになったのは。
そして目をつけ始めるとやつの行動はいささか不思議だった。

やつはいつだか群がっている女子生徒に「僕はまだ若いから、ほかの先生方の雑用をいろいろ任されるんだ」なんていっていた。
だが、裏で校長や教頭に意見している場面を見たことがある。いや、思えばあれは命令だったかもしれない。

この学園の裏の主導者は奴だと俺は思っている。それに生徒を手駒にする。
かなりの危険人物だ。
もし、仲間に何かあったら・・・!なんて考えたら奴をボコボコにするかもしれないくらい感情が高ぶる。

「あんたも質問に答えなさいよ」そうアンコがいう。

質問の内容をまとめると、何故あの時俺が助けに来たか。阿部誉は何者なのか。薬とは。


さっきまでの気迫があまり見られない彼女に気持ちが和らぎ答えていく。

あの時はコートで柳生とダブルスを組んでブン太とジャッカルのペアと試合をしていた。
で、コートチェンジをする時にたまたまコートの外にいる女たちの声が聞こえた。
その会話の内容が、阿部誉が噂の編入生を抱えて保険室に向かったと。

阿部誉は前々から先程の理由でいい印象はない。
それに、アンコ自身が前に口にしていた“シンオウの人間”。それにまだ聞きたいことも沢山あったのに、阿部誉のせいでそのことができなくなるのは嫌だった。

だから助けに行った。

そして保健室を廊下から伺っていたらたまたまあいつがなにかコップに粉を入れているのを見た。
それを飲んだあとにお前はおかしくなった。決して自分のことを口にしようとしない奴が、あったばかりのやつにそんなこと話すわけないと思っていたから薬だと思った。


答えるとアンコは考え出した。真面目な顔でどこを見ているのかわからない。

そして顔を上げる。さっきみたいな真剣な顔だった。

「仁王、私に協力してくれない・・・?」


意外な一言だった。そんなに自分が信頼されてたとは思っていなかった。この状態もかなり嫌そうにしていたし。

でも、こんな面白い誘いは久々かも知れない。
緩む口元を押さえることをせずにやりと笑って答える。

「勿論ぜよ」


ああ、これからがもっと楽しみになった。



20140517
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