道草少女

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幸村side


イライラしているのはコスモだけではなかった。
アコに勝った彼もイライラしていた。

そのストレスを発散するため、辺りは真っ暗だが、寮の外で壁打ちをしていた。少し離れたところから、相棒のメガニウムがウトウトしながらそれを眺めていた。

壁打ちに使っている壁は、まだ使い始めだというのにうっすらと跡がつき始めていた。
それほど力がこもっているということだろう。
それでもなお腹の虫が収まらないのか、一定のリズムを刻むボールの動きは止まることがなかった。


なぜ

なぜ彼女はあのバトルで手加減なんかをしたんだ。それほどまでに俺が弱くて相手にならないということなのか?
でも次のバトルで当たった小杉さんには全力でぶつかっているように見えた。
なんたってあのポケモン用のアクセサリーを壊してしまうほどの威力でぶつかったんだ。彼女のモチベーションもきっとかなり高かったのだろう。

それに比べて俺とのあのバトル。思い出しただけでも腹が立つ。

あの動きのわざとらしい鈍さ。彼女の変な支持の出し方。それに、意識だって全然集中しているようではなかった。なにか、そう、別のことを考えているような。


ブン太と試合をしていた時は、見ているだけでドキドキした。俺もあの子と戦いたい。あの子と話をしてみたい。あの子について知りたい。
最近の平凡とした俺の生活に、彼女という刺激ができた。
この学園の中で起こることはほとんど毎日一緒だ。行事もちょこちょこはあるがそれは何年も前からやってきているから特別珍しいことでもない。

そう、久しぶりなのだこんなにドキドキしたのは。
まるで初めて他校の生徒とポケモンバトルをした時のあの感じだ。

丸井にジャッカル、仁王はわからないけどかれらは彼女と少し話をしたことがあるらしい。
その話を聞くたびに何度羨ましいと思ったことか。
俺自身が話に行こうと彼女のもとを訪ね用としたのはいくらかあった。だが、それはかなわないままで終わった。休み時間は俺自身が忙しくていけないなので放課後の部活のない時間でいつも会いに行こうとする。けれどもいつも彼女はいなかった。

どこに行っているのかは彼女たちの友達もよくわかっていないようだった。

「くそ・・・」

いつから始めたかわからない壁打ちは、幸村の手によって中断された。
流れる汗を手で拭う。だがいくら手でやったって肌にこびりつく気持ちの悪い感じまでは取ることができなかった。その不快感に少し眉間にシワがよるも、疲れの方が上回ったのか、メガニウムの近くに仰向けで寝転んだ。


真っ黒な空には街灯の光の他に寮の窓からの光。夜空の月と星の光はその二つに霞んであまり目立ちはしなかった。


なんで手を抜いた。


そのことを考えれば考えるほど頭の中がモヤモヤして、イライラして不安になって。
そして最終的にはなんでこんなに考えてしまうんだろうという結果になってしまう。

そばにいるメガニウムからは規則正しい寝息が聞こえてくる。
草タイプのポケモンには夜という時間は活動が盛んな時期ではない。こんな夜まで俺に付き合わせてごめんと思いながら優しくメガニウムの足を撫でる。


やっぱり、本人に直接聞くのがいいだろう。
あの時は変な嘘でかわされてしまったけれど、今度はそうはいかない。そっちがその気なら徹底的に追い詰める。どんな手を使ってでもだ。

だってそれは俺に対して失礼だ。
何か謝罪的なことをしたほうがいいと十人に聞いたら十人が“はい”と答えるだろう。

「よし、

・・・・俺を本気にさせた君が悪いんだ」


幸村の表情はいくらか明るくなった。


幸村side終



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