道草少女

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随分と好戦的なゼブライカを前にアンコとダイゴの二人は自分たちのモンスターボールへ手をかける。
だが、ダイゴはそれに加え空いている手で、彼女のモンスターボールへかける手を下ろした。アンコは予想だにしない行動に目を見開き、すぐさまダイゴの方へ顔を向けた。彼もこちらを見ていてその場にそぐわない柔らかい微笑みでいた。

「どういうことですか」

その表情に戸惑い、本当はもっと強く言おうと思っていた言葉は慎重になっていた。ダイゴは手にとったボールからネンドールを繰り出し、ひと呼吸おいてから話し始めた。

「ここは僕に任せてもらっていいかな?ポケモンの相性もあるし、ここで二人でもたついていても時間が無限にあるというわけではないしね。

それに、彼女には聞かなきゃいけないこともあるからね・・・」

最後の理由。その瞬間だけ彼の瞳はぎらりと光る。初めてかも知れない。いつもはヘラヘラしていてチャンピオンの威厳なんか一度も感じたことがなかった。そもそもいい大人が趣味に没頭してろくに仕事もしないのかと馬鹿にすることが多かった。けれど、今の彼はどうだろうか。チャンピオンとしてはあまり感じられないが、その猟奇的な、威圧的な感じに背筋が寒くなった。これが、ツワブキダイゴという男の本質なのだろうか。
アンコは「わかりました」と自分に言い聞かせるよう返事をし、走って基地の奥へと消えていった。

「早く始めましょうよ、私が用のあるのはあの子なんだからちゃっちゃと済ませるわ・・・
ゼブライカ、暴れる!」
「ネンドールど派手に行こうか、大地の力」

暴れるゼブライカの四肢がネンドールに当たるも、ネンドールにはあまりダメージがない。攻撃が落ち着いたところでネンドールの反撃が始まった。
辺りは地震のようにグラグラと揺れ始め、支えがないと立っていられないほどだ。だがダイゴはなれているのか、手を腰に当ていつもの涼しい顔でその様子を見ている。コスモは壁を支えになんとか立っている状態だ。そんなコスモは酷く顔を歪めていた。歯が割れてしまいそうなくらい食いしばり、恨めしそうに彼を睨みつけていた。
そして、揺れが収まると同時に地面から多くの土砂、溶岩が吹き出し、床も天井もいくつも大きく穴を開けた。
ドオオオンッ!!!ドンドンッ!!大きな爆発音がいくつも鳴り響く。

ゼブライカは戦闘不能。床はボコボコ。天井からは太陽の光が沢山降り注いだ。ネンドールは力抜き、ダイゴの周りをユラユラと浮遊し始める。
ダイゴは相手が次のポケモンを出していないことを確認し、近くまで歩みを進めた。
コスモは泥だらけになって壁に寄りかかって座っていた。座っているというよりは、体をあずけていたという方が正しいかも知れない。肩で息をしていて、動くこともままならなそうだ。
ほぼ確実にネンドールの攻撃が飛び火している。そんな状態でも容赦なく胸ぐらをつかみ、彼女に詰め寄る。

「ねぇ、君たちロケット団の目的は何なんだい?」
「・・ハァハァ、」

顔を持ち上げる力もないらしく、髪の毛もだらしなく垂れ下がり床につく。口をつぐみ、答える気はないと意思表示をする。そんな行動も予想済みだったダイゴはさらに続ける。

「君、組織では結構偉い方なんだろう。ポケモンもそれなりに育てていたみたいだしね。
僕もねロケット団のことについてそれなりに調べてきてはいるんだよ。トップのサカキ。幹部が四人。最も冷徹な男と呼ばれるランス、変装名人のラムダ、ロケット団幹部で紅一点のアテナ、司令塔的存在のアポロ。
まぁこんなに大規模なことをしているんだから、幹部自体の人数もそれなりに増えていそうだけどね。君はその新人幹部かな?」
「・・・・・」

頑なに口を開こうとしない彼女。

「はぁ、どうしたら話してくれるかなぁ。君の弱みに付け込めればいいのかな」

その時の表情はアンコとの別れ際にしたあの表情だ。やはりその表情は誰から見ても恐ろしいもので、現にコスモも一ミリも体を動かせない。蛇に睨まれたように、体が麻痺したように。

「あ・・ぁっ・・・・ああ」
「ねぇ、もう一度言うけど君たちの本当の目的って何?」

彼の後ろにはいつ出したのかわからない彼のポケモンたちが勢ぞろいしていた。
どのポケモンからも威圧感がひしひし伝わる。コスモの頭の中には“死ぬかも知れない”その言葉だけが何百回と繰り返された。

「ああ・・・あぁ、わたし、達は・・・この、ここでこの学園で育てた生徒たちを、ロケット団にそのまま加入させたり・・卒業していく奴らの強いポケモンを奪ったりして、ます」
「それだけ・・・?」
「装置、ポケモンを従わせる装置と・・ポケモンの力を引き出す装置を研究、製造して・・・・あ、ああぁ・・私が知っているのは・・・それだけで!!」

ダイゴの手から逃げるように体を捻り壁にめり込みそうなくらい縮こまる。
この状態では流石にもう聞き出せないだろうと感じ取ったダイゴは、口元を引き上げ、ライブキャスターの通信機能をONにする。
そして誰かと会話したあとまた電源を切り、今度はタイピン型の通信機に喋り始める。その声は嬉しそうに、けれどもどこか冷たさを含む。

「さぁ、今の会話全部聞いてくれたよね。ダイゴだけれども、ゆっくり喋っている暇はないから簡潔に言うよ。今の声で彼女が誰かということを理解している人もいるだろうけど、ロケット団以外の生徒たちに協力して欲しい。」



「この学園を壊そう・・・!」

電源を切り、アンコを追った。


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